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  • 2021/08/16 掲載

中世から変わらなかった銀行の「為替」業務、ブロックチェーンが根底から変える

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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銀行の3大業務として、「預金」「融資」「為替」が挙げられる。マネーを遠隔地に送る仕組みは、為替という形で中世に確立された。そこでの両替商が銀行になり、口座振替が行われるようになったが、基本的な仕組みは変わらなかった。しかし、ブロックチェーンを用いて送金ができるようになり、この状況が根底から変わろうとしている。

執筆:野口 悠紀雄

執筆:野口 悠紀雄

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi
Twitterアカウント:@yukionoguchi10
野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/

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画像
古い歴史を持つ「為替」の仕組みが変わろうとしている
(Photo/Getty Images)

マネーのリモート化要請に応じて生まれた「為替」

 電話やテレビ会議を使えば、遠隔地にいる人と商談して取引を成立させることができる。これがリモートの商取引だ。

 では、それに伴う送金、決済、支払いを、リモートで行うことが可能だろうか?

 金・銀や紙幣が、人類の歴史のかなり早い時点から、決済のための通貨として用いられてきた。

 距離的に近い相手であれば、これらを直接渡すことで支払いができる。

 しかし、遠隔地との取引では、これでは不都合が生じる。途中で盗難に遭う恐れがあるからだ。

 こうして、マネーのリモート化が求められることになった。

 そこで、為替という仕組みが導入された。

 為替手形は、振出人が、支払人にあてて、受取人に一定の金額の支払いを委託する手形だ。

 中国やヨーロッパでは、歴史のかなり早い段階で、この仕組みが導入された。特に、イタリア両替商の活躍が有名だ。

 日本でも、すでに室町時代に為替手形が登場し、江戸時代には大坂と江戸の間の取引などに使われた。

 この仕組みは、両替商という金融機関があるから機能する。それが資金を扱う。

 送金人から受取人には、為替手形という情報を送る。つまり、遠隔地には情報だけを伝える。

 これが為替の本質だ。

現在では、銀行口座振替で為替業務が行われている

 為替業務を行っていた両替商は、銀行になった。そして口座振替を行うようになった(実際、Bankという言葉は、両替商が使っていた机のことだ)。

 こうして、現在では、遠隔地への送金は、銀行口座振替によって行われている。

 免許を持った銀行だけが、この業務を行うことができる。

 日本の場合で言えば、送金情報は、全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)が運営する全銀システム(全国銀行データ通信システム)を通じて銀行から銀行に伝達され、銀行間の収支尻は日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)で決済される。

 この業務が古くからの為替業務と同じものだという本質は、一見して分かりにくい。しかし、今でもこの業務は、「内国為替業務」と呼ばれている。

電子マネーは為替の仕組みと同じ

 その後、電子マネーが導入された。この仕組みは、次のようになっている(QRコード決済などの場合)。

 電子マネーの利用者Aは、送金額を自分の銀行口座から引き落として、電子マネー事業者の口座に振り込む。事業者 は、Aに電子マネー残高の情報を送る。Aがスマートフォンのウォレットから、電子マネーを店舗に送る。

 店舗は、振り込みを要請する通知を、電子マネー事業者に対してインターネットを通じて送る。事業者は、店舗が受け取る金額を、店舗が持つ銀行口座に振り込む。

 結局のところ、代金が、Aの口座から、事業者の口座を経由して、店舗の口座に振り込まれたことになる。

 このように、電子マネーとは、銀行口座システムの上に作られた仕組みである。銀行口座からの振り込みを簡単に行うための仕組みだ。

 資金の移動は、銀行の口座振り込みのシステムを用いて行われる。

 つまり、電子マネーは、為替の仕組みと同じものである。

 中世以来の為替の仕組みにおける両替商が銀行に変わり、為替手形がインターネット上の通信に変わっただけだ。

 Aが店舗に送っているのは、情報であって、経済的な価値ではない。これは為替手形に相当するものだ。つまり、インターネットは経済的な価値を運ぶことができないのだ。

 マネーのリモート化は、インターネットだけでは完結しなかったのである。

 以上の仕組みの根本的問題は、送金コストが高いことだ。

 また、銀行の口座振替に依存している以上、国際的なリモートマネーにはなり得ない。

【次ページ】仮想通貨は銀行に依存しない

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