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  • 2021/11/22

日本人の生産性は本当に低いのか? OECDデータによる「誤った解釈」が横行する理由

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

OECDが公表する生産性のデータが注目を集めており、日本の生産性が国際比較で低位にあることを示すものとして用いられている。しかし、これらのデータは購買力平価で評価されたものなので、基準時点以外の時点での国際比較に用いることには問題がある。たとえば、世界と比較した相対的な日本の生産性がどう推移してきたのかを見る場合などには「誤った解釈」に陥るケースがある。

執筆:野口 悠紀雄

執筆:野口 悠紀雄

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi
Twitterアカウント:@yukionoguchi10
野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/

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データの使い方は間違っていないか?
(Photo/Getty Images)

注目を集めている生産性データ

 OECD(経済開発協力機構)が生産性のデータを公表している。

 「生産性」とは、就業者1人あたりGDPだ。OECDのデータの一部を示すと、下の表のとおり。

就業者1人あたりGDP(単位:ドル)
  2000年 2013年 2020年
日本 71,621.9 78,341.5 75,032.8
韓国 51,133.2 72,033.1 79,622.1
アメリカ 99,739.7 118,547.2 128,448.4
G7 88,971.5 99,797.5 102,453.4
OECD平均 77,190.9 86,418.9 89,927.8
(出典:OECDのデータにより筆者作成)

 「生産性」とは、就業者1人あたりGDPだ。OECDのこのデータは、さまざまなところで使われる。特に最近では、「日本の生産性が低い」ことの証拠として引用され、たとえば次のようにいわれる。

  • 日本の生産性は、国際比較で見てきわめて低い。
  • OECDの平均よりかなり低く、OECD加盟36カ国中の最下位グループに属する。G7では最低だ。
  • アメリカの生産性に比べると58.4%でしかない。
  • 国際比較で上位にあるのは、ルクセンブルクやアイルランドだ。それに比べると、日本の値は半分ぐらいでしかない。
  • この状況は危機的であり、生産性を引上げる政策が必要だ。

 OECDは、「労働時間あたりのGDP」など、類似のデータをいくつか発表している。これは、「就業者1人あたりGDP」と似た指数だが、少し意味が違う。

 「1人あたり月平均賃金」のデータもある。これで見ると、2020年の日本の賃金は3万8,514ドルであり、米国の6万9,391ドルの55.5%だ。

多くの人は、間違った解釈をしている

 生産性や賃金のデータから多くの人が想像するのは、日本の地位が国際的に低下していることだ。これらの数字は、日本が貧しくなっていることの証拠としてしばしば引用される。

 ただし、上のデータから直ちにそのような結論が引き出せるとは限らない。

 なぜなら、これらのデータは、購買力平価で計算されており、現実の為替レートで計算された値ではないからだ。

 したがって、その解釈について、十分な注意が必要だ。これらのデータは、間違って読まれ、正しくない解釈をされていることが多いのである。

 実際、上に示した解釈は、正しいものとはいえない。これについて、以下に説明しよう。

購買力平価とは何か

 購買力平価が何かは、10月25日の本欄で説明した。

 これは、基準時点と同じ購買力を維持できる為替レートのことである。たとえば日本で物価が上昇せずアメリカで10%上昇したら、購買力を維持するには、円の為替レートの10%増価しなければならない。そのようにして計算した値が購買力平価である。

 重要なのは、それが計算上のものにすぎず、多くの場合に、現実の為替レートとは異なる値になることだ。

 購買力平価と実際の為替レートの違いを表わすのが、実質為替レートだ。これは、基準時点を100とする指数で示されている。

 購買力平価の基準時点としてどの時点をとるべきかについてのルールはない。

 経済が安定的で正常な状態にあったときを基準にするのがよいといわれるが、何をもって「正常」とするかの判断は、客観的にはできないことが多い。

 実際には、基準時点の選択は恣意的になされている。

【次ページ】基準時点以外の国際比較はできない

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