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- 2021/12/20 掲載
サムスンは打倒できず、経済成長率も及ばない。これからの日本は韓国より貧しくなる
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
「打倒サムスン」は実現できなかった
2010年、当時のパナソニック社長、大坪文雄氏が、『我が「打倒サムスン」の秘策』という論考を『文藝春秋』に寄稿した。その中で、日本の製造業がふるわない原因として、5つの点を挙げた。その中の1つが円高であり、もう1つは法人税であった。
これらは、大坪氏に限らず、当時の日本の経営者の多くが言っていたことだ。つまり、事業の内容やビジネスモデルが世界の変化に適応していないのが問題なのではなく、経済環境や政府の政策が問題という考えだ。
それから10年が経って、事態は大きく変わった。為替レートは大幅に円安になった。当時の経営者が「5大苦」の1つとして挙げていた要因は、様変わりしてしまった。
他方で、韓国の実質実効レートは増価した。とりわけ、アベノミクスによって大幅な円安が進んだ2013年頃から、ウォンが顕著に増価した。
法人税についても状況は変わった。当時は30%だった税率は、現在の23.2%まで引き下げられた。
このように、状況は大坪氏が望んだようになったのだから、日本の製造業は復活してしかるべきだ。では、実際にはどうなったか? パナソニックはサムスンを打倒できたか?
現在、サムスンは、時価総額が4372億ドルで、世界ランキングの第15位だ。他方で、パナソニックの時価総額は256億ドルと、サムスンの17分の1。世界ランキングでは第776位である。このように大きな差がついてしまった。
この期間に、GDPでみた日韓相対関係も変った。2010年には、日本のGDP(名目GDPの市場為替レート換算値)は5.8兆ドルであり、韓国1.1兆ドルの約5倍だった。それが2021年には、日本5.1兆ドル、韓国は1.8兆ドルであり、日本と韓国の比率は2.8倍まで縮小した(日本の値が減少したのは、円安のため)。
低下しているが、なおかつ高い韓国の成長率
韓国は、これまで高い成長を続けてきた。しかし、成長率が鈍化しているという指摘がある。韓国の高成長は貿易によって牽引されてきたが、そうしたパターンの成長に限界が来ているとの見方だ。
たしかに、データを見ると、成長率が徐々に落ちていることがたしかめられる。自国通貨建て実質GDPの年成長率を見ると、1990年代には5%から10%の高成長が続いた。2000年代になっても、5%程度の成長だった。それが徐々に低下し、2010年以降は3%程度になっている。そして、2018、2019年には2%台になっている。
ただし、2%台の成長率というのは、日本に比べれば高い。世界の先進国と比べても遜色がない。
また、コロナ期においても、韓国経済のパフォーマンスは良好だった。2020年のGDP成長率がマイナスになったことは事実だ。しかし、IMF(国際通貨基金)のWEO(世界経済展望)によると、2021年にはプラス4.3%の成長率になる。2022年は3.3%だ。
こうして、2022年の実質GDPは、2019年に比べて6.8%増加する。そして、2023年には、2019年よりも9.8%ほど高い水準になる。
これは、日本の状況と比べてかなり違う。日本では、2020年にマイナス成長になり、2021年においても、実質GDPは2019年より2.4%少ない。2022年になっても、2019年から0.8%増えるに過ぎない。
このように、コロナ下においても、韓国は良好な経済パフォーマンスを示している。成長率が低下しているとはいるものの、なおかつ高い水準だ。
【次ページ】「日本の成長率が低く、韓国が高い」という構造は今後も続く
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