• 2026/07/17 06:30 掲載

なぜ全東信は20年も粉飾を続け“1,259億円破綻”した? 決済インフラ“最大の穴”とは(2/3)

FINOLABコラム

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焦げ付きは地銀・信金・信組に…地域金融機関への打撃

 全東信に貸し付けていた多くの金融機関、特に地域金融機関の巨額な焦げ付きが問題になっている。

 読売新聞が報じたところによると、債権額が多い金融機関には、地銀・信金・信組が多数入っており、それぞれにおいて相当額が回収不能となる恐れが出ている。

 以下の債権額トップ10リストをみても、資金力に余裕があるとは思えない小規模の地域金融機関が揃っていることがうかがえる。

全東信向け債権の上位10機関
金融機関名(所在地) 債権額(単位:億円)
近畿産業信用組合(大阪市) 220
東京スター銀行(東京) 80
東和銀行(前橋市) 80
山口銀行(下関市) 75
大阪厚生信用金庫(大阪市) 68
ハナ信用組合(東京) 45
北おおさか信用組合(茨木氏) 40
成協信用組合(東大阪市) 35
第一勧業信用組合(東京) 29
三十三銀行(四日市市 22
小規模な地域金融機関が並ぶ「全東信向け債権の上位10機関」
(出典:読売新聞記事よりFINOLAB作成)
 金融不安への懸念も増大している。金融債権者は63社にのぼっており、10億円超の融資を行っていた小規模の信用金庫や信用組合も多数存在するため、今後こうした金融機関の業績や信用状況への影響も注目されている。

黒字は偽装だった…長期の「巨額粉飾決算」が発覚

 これほどの巨大企業が突如破産した背景には、大規模な粉飾決算が長期間にわたって行われていたことがある。時事通信の報道によれば、帳簿上は黒字(純資産約25億円)を装っていたが、実際には約170億円の預金残高の水増し、約154億円の架空債権の計上、約88億円の実質的に無価値な営業権の過大計上などを行っていたという。

 さらに、加盟店へ支払うべき「未払立替精算金」約217億円を隠蔽していた。これらを是正すると、実質的には大幅な赤字(約605億円の債務超過)だったことが判明した。2024年にも、他人名義での不正な加盟店契約による幹部の逮捕や、法人としての書類送検などの不祥事が発生しており、金融機関からの新規融資が受けられなくなったことが、今回の破綻につながったものとみられている。

なぜ20年も見抜けなかったのか、5つの要因

 これほど巨額の粉飾決算が長期間発覚しなかったのは、主に「決済代行業というビジネスモデルの複雑さ」と、融資を行っていた地域金融機関の「審査・与信の盲点」が重なったものと考えられる。

(1)決済代行業特有の「不透明で複雑な資金の流れ」
 決済代行業は、カード会社、加盟店(飲食店など)、決済代行会社(本件では全東信)、そして金融機関の間で、毎日莫大な額のお金が動き続けるビジネスとなっているため、悪意をもった粉飾が長期にわたって露見しなかった。
  • 「資金の所有権」の曖昧さ:預金口座にあるお金が「全東信の利益(固有の財産)」なのか、それとも「数日後に飲食店へ支払うべき売上金(預かり金)」なのかが、決算書(B/S)の数字だけでは非常に判別しづらい構造になっていた。
  • 重層的なキャッシュフロー:資金が常に激しく移動しているため、銀行や監査側が「ある一時点の決算書」を見ただけでは、その数字が実態を反映しているのか、それとも一時的にかき集めた見せかけのものなのかを見抜くのが非常に困難であった。

(2)盲点となった「預金水増し」
 全東信は今回、約170億円もの預金残高を水増ししていた。本来、預金残高の粉飾は、銀行が「残高証明書」を求めれば見抜きやすいものであるが、全東信は63社もの多くの地方銀行・信用金庫・信用組合から分散して融資を受けていたことにより、 銀行同士の残高確認が難しいことを利用して、架空預金を計上していた模様である。

(3)信用の連鎖(Chain of Trust)
 全東信の信用状態を評価するプロセスにおいて、「上流企業がチェックしているだろう」「銀行が監査しているだろう」「監査法人が見ているだろう」といった、「誰かが見ているはず」という依存構造が生まれてしまった。にもかかわらず、結果として「誰も全体像を把握していなかった」ことも事実であり、カード会社も金融機関も表面的な数字をみるだけで、踏み込んだチェックに至らなかった。

(4)地銀の「激しい貸出競争」とチェックの甘さ
 近年、地域金融機関は超低金利や人口減少により、優良融資先の獲得に必死となっていた。全東信は表面上、毎年黒字を出し、資本金を45億円にまで増資するなど「急成長している優良企業」に見せかけていたため、金融機関側は「他行も貸しているから大丈夫だろう」という横並びの心理が働き、貸出実績を作りたいがために、厳格な裏付け調査(実態分析)を怠ってしまった側面もあった。

(5)非上場企業ゆえの「監査の限界」
 全東信は上場企業ではないため、金融商品取引法に基づくような、厳格で公的な監査や情報開示の義務がなかった。このため、外部からの厳しいチェックの目が入りにくく、社内のガバナンス(企業統治)が機能しないまま、経営陣による隠蔽工作が長年まかり通ってしまうことになった。

決済代行業をめぐる「3つの構造的な課題」

 「預金水増し」や「架空債権の計上」といった粉飾の手口そのものは、あらゆる業種で見られる極めて古典的(ありきたり)なものであるが、「なぜ20年間も露見せず、負債が1,000億円を超えるまで膨らんでしまったのか」、という点においては、決済代行業というビジネス特有の構造と法律の盲点が作用した結果と言える。

(1)法規制の盲点:お店の売上金」を守るルールの不在
 ここが他の規制ビジネス(旅行、証券、資金移動、仮想通貨等)との最大の違いとなっている。

 多くの金融系・預かり金を扱う業種では、「分別管理(ぶんべつかんり)」が法律で厳格に義務付けられている。顧客から預かったお金と、会社の運営費を別の口座に完全に分け、会社が倒産しても顧客のお金は守られる仕組みである。

 一方で、日本の現行法(資金決済法など)において、クレジットカードなどの決済代行業者が預かる「加盟店(飲食店など)への支払い前の売上金」には、厳格な分別管理や資産保全の義務が課されていない。全東信は、本来なら数日後にお店へ引き渡さなければならない巨額「売上金(預かり金)」を、赤字の穴埋めや別の支払いに使い回す(いわば自転車操業する)ことが構造上可能となっていた。他業種なら法律違反となる行為が、決済代行ではグレーゾーンとして見過ごされてきたことになる。

(2)金融機関の盲点:「他人の金」を自社資産に偽装
 製造業や小売業であれば、売上や利益の規模に対して、銀行口座に数百億円もの現金が常に眠っているのは不自然である。「なぜそんなに現金があるのか?」と不審に思われる。

 しかし、全東信の口座には、毎日全国のカード会社から加盟店向けの売上金が数億~数十億円単位で入金されてくるため、粉飾(預金水増し)をして口座残高を実際より多く見せかけても、銀行側は「決済代行だから、常にこれくらいの手元資金が動いているのだろう」として、異常値として検知しにくかった可能性がある。

(3)被害の構造:「立場の弱い中小・個人店」にシワ寄せ
 建築業や製造業の大型倒産であれば、被害を受けるのは主に「下請けの企業(法人間取引)」である。しかし、決済代行の倒産は、その会社を全く知らない一般の消費者や、末端の個人飲食店を直撃することになる。お店側からすれば、全東信は「クレジットカードの機械を貸してくれて、売上を振り込んでくれる裏方の業者」に過ぎない。全東信がどれだけ怪しい経営をしていようが、個別加盟店がその財務状況や粉飾を見抜くのは不可能である。結果として、経営陣の不正のツケを、最も立場が弱く情報もない「街のレストランや居酒屋」が丸ごと背負わされることになった。 【次ページ】分別管理・ライセンス制…これから来る法規制の5つの論点
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