- 2026/07/17 06:30 掲載
なぜ全東信は20年も粉飾を続け“1,259億円破綻”した? 決済インフラ“最大の穴”とは(3/3)
FINOLABコラム
分別管理・ライセンス制…これから来る法規制の5つの論点
金融庁や銀行業界では「なぜ20年も見抜けなかったのか」という与信管理・監査体制の甘さに対する厳しい批判が集まっており、決済代行業者に対する法規制の強化や、預かり金の分別管理(会社の資産と加盟店の売上を明確に分けること)の義務化に向けた議論が進められている。タイムリーなことに、2026年6月に「改正資金決済法」が施行されたばかりで、これまで規制の緩かった海外系の決済代行(クロスボーダー収納代行)などが「資金移動業」の登録対象となり、規制が強化され始めた。
しかし、今回の全東信のような「国内の一般的なクレジットカード決済代行」における法的な盲点が浮き彫りになったため、今後はさらに踏み込んだ法規制や制度改革が検討・導入される可能性が高いものと考えられる。
(1)「分別管理」と「資産保全」の義務化
これまで、決済代行業者が預かる加盟店の売上金には、法的な保全義務がなかった。今後はここが最も厳しくメスを入れられる部分となる。
- 信託保全の導入:証券会社やFX業者、一部の資金移動業者のように、加盟店への支払い前の売上金を「信託口座」などに預け、自社の運転資金と完全に切り離して管理させることになる。
- 破綻時の即時返還:これにより、決済代行会社が倒産しても、お店の売上金は会社の差し押さえ財産(破産財産)にはならず、お店側に最優先で100%返還される仕組みが作られる。
現状、クレジットカード決済の代行業者(アクワイアラの下に位置する決済事業者)は、比較的自由に開業できる状態である。
- 金融庁や経済産業省への登録義務化:一定の財務基盤(純資産や自己資本比率)や、内部統制の体制が整っている企業でなければ決済代行を営めないよう、「登録制」や「認可制」への移行が考えられる。
- 定期的な外部監査の義務化:全東信が非上場を隠れ蓑に20年も粉飾を続けられた反省から、たとえ非上場であっても、扱う決済規模が一定以上の業者には「公認会計士による厳格な外部監査」と「財務状況の定期開示」を義務付ける法改正が現実味を帯びている。
全東信が中小店舗にアピールしていた最大のポイントが「週2回・月6回」など、通常より早いスパンでの売上金入金(早期振込)であった。早期振込を維持するためには莫大な手元資金が必要であり、これが破綻や流用の引き金になった。
そのため、「加盟店から手数料を取って行う早期振込」のスキームに対し、実質的な融資(ファクタリング等)と同等の厳しい与信管理や規制をかける、あるいは「一定以上の手元流動性(プール金)の維持」を義務付ける可能性がある。
(4)海外における決済代行会社に対する法規制
決済代行会社に対する法規制を考える上では、既に導入されている海外の事例が参考となる。以下の例から、決済代行業者は「ITサービス事業者」ではなく、「顧客資金を預かる金融インフラ」として規制されていることがわかる。
- 欧州(EU):EUでは、Payment Services Directive(PSD2)およびElectronic Money Directive(EMD2)に基づき、決済機関(Payment Institution)や電子マネー発行会社(Electronic Money Institution)は、顧客から預かった資金について「Safeguarding(資金保全)」が義務付けられている。資金保全の方法としては、「顧客資金を自社資産とは別の銀行口座で管理する(分別管理)」、「信託や保険によって保全する」、などが認められている。そのため、事業者が破綻した場合でも、顧客資金は破産財団から切り離され、返還される仕組みとなっている。
- 英国:金融行為規制機構(FCA)の監督の下、決済機関および電子マネー事業者に対し、EU制度を引き継ぐ形で厳格なSafeguarding制度が維持されている。FCAは、「顧客資金の分別管理」「日次での資金照合」「外部監査」「経営陣の責任明確化」などを求めており、違反した場合には業務停止命令やライセンス取消しも行われる。
- シンガポール:Payment Services Actに基づき、大規模な決済事業者(Major Payment Institution)は、顧客資金について厳格な保全措置を講じる義務がある。具体的には、「信託口座での管理」、「保証金や保証保険の利用」、「銀行保証」などが認められている。また、金融管理局(MAS)は財務健全性や内部統制について継続的な監督を行っている。
全東信の上位には、Visa、Mastercard、JCBといった国際ブランドや、直接ライセンスを持つ大手カード会社(アクワイアラ)が存在している。とはいえ、2024年に全東信の幹部が「ぼったくり店」の決済を不正に仲介して逮捕された際も、上位会社のチェック機能が働くことはなかった。
今後は、決済代行業者の財務やコンプライアンスを、上位カード会社や国際ブランドが厳格に「共同監督」することを法律やガイドラインで義務付け、不祥事があった際は上位会社にもペナルティを科す可能性がある。
決済代行は“金融サービス”として再定義されるか
本件は一企業の経営破綻ではなく、決済インフラに対する信認低下を通じて金融システム全体へ波及し得るリスクを示した。つまり、決済代行という新しい金融インフラが、法制度上は従来型のITサービスとして扱われてきたことによって生じた制度的ギャップを露呈したものである。
キャッシュレス比率を高まる中で、決済代行は社会インフラとなりつつあり、金融システム上重要な機能を担うようになっている。
従って、今後は決済代行業を「単なるIT・ITサービス業」ではなく、「国民の資産を預かる重要な金融インフラ(金融機関並みの位置づけ)」として法的に再定義する動きが加速するものと考えられる。
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