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- 2026/07/24 06:30 掲載
AI悪用がヤバい…メガバン・地銀・ネット銀で「セキュリティ対策水準」はどう変える?
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービス テクノロジー・コンサルティング パートナー 小川 真毅
サイバーセキュリティ業界で24年以上の業務経験を有する。セキュリティエンジニアとしてさまざまなソリューションの設計から導入、運用を数多く経験後、複数の外資系大手IT企業やグローバルファームにてサイバーセキュリティ事業の立ち上げや事業責任者を歴任。EYストラテジー・アンド・コンサルティングでは主に金融業界向けのサイバーセキュリティ・コンサルティング組織リーダーとして事業を推進している。保有する専門資格にCISSP、CISA、CISM、CBCI、CCSK、PMPなど。経営学修士(MBA)。
大手Sier、コンサルティングファームを経て現職。金融機関を中心に、サイバーセキュリティ、ITリスク管理に関する評価・高度化支援に従事。 金融機関向けサイバーセキュリティコンサルティングのチームに所属し、第三者評価サービスをリード。 CRI Profileをはじめ、FFIEC CAT、金融庁サイバーセキュリティガイドライン等、多様なフレームワークを用いた大手金融機関に対する第三者評価の豊富な経験を有する。 専門資格として、情報安全確保支援士、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、システムアーキテクト、ITサービスマネージャ等の情報処理技術者に関する資格に加え、銀行業務検定も複数保有。
対策の「上限」は見えない…だからこそ問われる“どこまで”
金融機関におけるサイバーセキュリティ対策は、年々高度化している。ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、クラウド環境の設定不備、委託先・接続先を経由した侵害など、金融機関が直面する脅威は多様化し、対策すべき領域も広がり続けている。さらに、フロンティアAIの発展により、サイバーリスクの前提そのものも変わりつつある。フロンティアAIは、単にサイバー攻撃の種類を増やすだけではない。脆弱(ぜいじゃく)性の発見から攻撃コードの生成、実行に至るまでの一連のプロセスを大幅に高速化し、防御側が対策を講じるための時間を短縮する可能性がある。
金融庁と日本銀行は2026年5月22日、こうした環境変化を踏まえ、脆弱性の発見から攻撃に至るまでの期間が大幅に短縮され得るとして、金融機関などに短期的な対応を要請した。従来と同じ優先順位やスピードで対策を進めるだけでは、急速に変化する脅威に対応することが難しくなりつつある。だからこそ、すべての領域を一律に強化するのではなく、限られた経営資源をどこに重点配分するのかという投資判断が、これまで以上に重要になっている。
サイバーセキュリティ投資には明確な「上限」が見えにくい。EDR(端末での脅威検知・対応)、SIEM(ログの統合監視)、SOC(監視・対応の専門組織)、脆弱性管理、ゼロトラスト、ID管理、バックアップ、訓練、委託先管理など、実施すべき施策はいくらでも挙げられる。しかし、すべての対策を一律に最高水準まで引き上げることは、コスト面でも、人材面でも、運用負荷の面でも現実的ではない。
では、金融機関は「どこまで」サイバーセキュリティ対策を行うべきなのか。
この問いに答えるには、単に必要な対策を洗い出すだけでは不十分である。求められるのは、自社の事業規模、提供する金融サービスの重要度、顧客への影響、システム構成、外部委託の度合いなどを踏まえ、どの領域に、どの水準まで投資すべきかを説明できるようにすることである。
第1回、第2回で述べてきたとおり、成熟度評価は、こうした判断を支えるための有効な道具となる。特にCRI Profileのような枠組みを用いることで、対策の有無だけでなく、適用範囲や運用の有効性まで含めて、自社のサイバーセキュリティ態勢を段階的に把握できる。成熟度評価の意義は、単にスコアを付けることではない。評価結果をもとに、経営として「何を優先し、どこまで引き上げるか」を判断するための共通言語を得ることにある。
「重要だから全部やる」の落とし穴、“一律・最高水準”のワナ
サイバーセキュリティ対策を考える際に陥りやすい落とし穴は、「重要だから、すべて高度化すべきだ」という発想である。もちろん、金融機関にとってサイバーセキュリティは極めて重要な経営課題であり、最低限満たすべき水準を下回ることは許されない。金融庁ガイドラインやFISC安全対策基準などの国内枠組みは、こうした最低限の土台を整える上で重要な役割を果たしている。しかし、最低限の要求を満たすことと、すべての領域を最高水準まで高めることは別の論点である。たとえば、勘定系システムや決済系システムのように、停止した場合の社会的影響や顧客影響が大きい領域では、高い可用性、迅速な復旧、厳格なアクセス管理、継続的な監視が求められる。
一方、影響範囲が限定的な内部業務システムについて、同じ水準の投資を一律に求めることが常に合理的とは限らない。つまり、問われているのは「全部やる」ことではなく、「何からやるか」を経営として説明責任を果たせるかである。
同じ金融機関の中でも、守るべき業務や資産の重要度は異なる。顧客接点を担うインターネットバンキング、決済処理を支える基幹システム、大量の個人情報を保有するデータ基盤、外部委託先と接続する業務システムでは、それぞれリスクの性質が異なる。したがって、投資判断においては、「サイバーセキュリティ対策を強化するか否か」ではなく、「どの領域を、どの水準まで、どの順番で強化するか」という問いに置き換える必要がある。
このとき成熟度評価は、現状と目標の差分を可視化する役割を果たす。すでに十分な水準にある領域に追加投資を重ねるよりも、重要業務に関わるにもかかわらず成熟度が低い領域に優先的に投資する方が、リスク低減効果は高い可能性がある。つまり、成熟度評価は、限られた経営資源をどこに配分すべきかを考えるための「投資の地図」として機能する。
では、その「投資の地図」を、実際の投資判断にどう落とし込めば良いのか。ここからは、その具体的な視点を見ていく。 【次ページ】投資判断を分ける“3つの視点”、評価結果をどう読むか
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