- 2026/09/01 06:30 掲載
【量子5方式の勝敗】“量子ビット数”に騙されるな、企業がやるべき3つのこと
前編はこちら(この記事は後編です)
「1000量子ビット」に騙されるな、本当に見るべき“指標”
量子コンピューターのニュースで最も注目されやすい指標は「量子ビット数」だ。「1000量子ビット達成」「100万量子ビットのロードマップ」──こうした見出しはたしかにインパクトがある。しかし手塚氏は、この数字だけを見て判断するのは危険だと指摘する。本当に重要なのは「エラー率」だ。エラー率とは、量子ビットを操作したときに、どのくらいの確率で計算を間違えるかを示す指標である。分かりやすく言えば「1000回操作して1回間違える」なら、エラー率は10のマイナス3乗(0.1%)ということになる。
ここで重要なのは、エラー率には「物理エラー率」と「論理エラー率」の2種類があるということだ。物理エラー率とは、個々の量子ビットの操作1回あたりの誤りの頻度を指す。実用的な誤り訂正を見据えるうえでは、10のマイナス3乗~4乗台が1つの重要な目安とされることが多い。
量子サイエンティストリード
手塚 宙之氏
「悪いものを集めるともっと悪くなる」誤り訂正の落とし穴
この物理エラー率をクリアすると、次は「誤り訂正」の出番だ。誤り訂正とは、複数の物理量子ビットを束ねて1つの「論理量子ビット」を構成することで、計算の信頼性を高める技術である。
たとえるなら、大事な文書を何部もコピーして別々の場所に保管し、一部が破損しても他のコピーから復元できるようにする仕組みに近い。
ただし、元の物理量子ビットの品質が低ければ、束ねてもエラーは減らない。それどころか「悪いものをたくさん集めたらもっと悪くなる」状態になる。
そこには「閾値」(しきいち)があり、物理エラー率がこの閾値を下回って初めて、誤り訂正は効果を発揮する。そして、この閾値は採用する誤り訂正符号の種類に大きく依存する。
さらに、閾値をギリギリ下回る程度では、論理エラー率を十分に下げるために膨大な数の物理量子ビットが必要になる。逆に、物理エラー率が閾値よりもはるかに良ければ、少ない物理量子ビットで同じ論理エラー率を達成できる。
求められる論理エラー率は用途によって異なるが、大規模計算では10のマイナス8乗~9乗(1億回~10億回に1回の失敗)以下に引き下げることが1つの目安とされている。
「最近では誤り訂正符号の開発も活発化しています。たとえば、実装容易性や閾値では歴史のある表面符号、量子ビット数の効率では新興のqLDPCのように、多くの選択肢が出てきました。量子ベンダーは自社方式の得手不得手を見極めながら、大規模FTQCの実現に向けた最短ルートを模索しています」(手塚氏)
つまり、量子コンピューターの実力を測るには、単純な量子ビット数ではなく、物理エラー率がどこまで改善されているか、そしてどれだけ効率的に誤り訂正を実装できるかを見るべきなのだ。
結果として、それが実行可能な計算の規模、すなわちどれくらい難しい問題が解けるかの推定につながる。そして、その先に動作速度や消費電力など、産業活用に向けた判断に重要な指標がある。 【次ページ】実用化に最も近い方式は? 先頭集団と“急速に追い上げる1つ”
金融セキュリティのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR