- 2026/09/07 06:30 掲載
ファナック・川崎重工が強くても足りない…米中とのフィジカルAI覇権争い「勝つ条件」(2/2)
産業用ロボットでは日本は今も世界級
日本の強みは、工場で溶接、塗装、組み立て、搬送などを行う「産業用ロボット」だ。この分野には、ファナック、安川電機、川崎重工業、デンソーウェーブ、不二越、セイコーエプソンなど、世界市場で実績のあるメーカーがそろっている。国際ロボット連盟によると、日本は世界のロボット生産の約38%を担う最大のロボット製造国だ。2024年の国内への産業用ロボット新規導入は4万4500台で、中国に次ぐ世界第2位だった。国内で稼働している産業用ロボットは約45万台に達する。
日本にも、カワダロボティクスの「NEXTAGE」のように、工場で人と並んで働く双腕型ロボットがある。NEXTAGEは、電子部品、自動車、食品、化粧品などの製造現場で使われている。ただし、これは脚で自由に歩く万能型ヒト型ロボットというより、製造現場で決められた作業を行う上半身型の協働ロボットだ。
日本では技術的に堅実なロボットは多いが米テスラ、米フィギュア、米アジリティ・ロボティクス、中国ユニツリー、中国ユービーテックのように、数千台、数万台規模のヒト型ロボット市場を目指す企業はまだ少ない。
高齢化がフィジカルAIを必要としている
特に、介護に使えるヒト型ロボットが実現すれば、その社会的意義は大きい。高齢者をベッドから車椅子に移したり、歩行を支えたり、必要な物を取ってきたりすることができれば、介護職員の負担を大幅に軽減できる可能性がある。
しかし、人間を介助できるロボットを作ることは、工場で決まった作業を行う産業用ロボットよりはるかに難しい。家庭や介護施設では、人や家具の位置が常に変化する。ロボットは周囲を認識し、人間の意図を理解しながら、状況に応じて動かなければならない。さらに、人を抱き上げる場合には、十分な力を出す一方で、転倒させたり傷つけたりしない高度な安全性も必要になる。
日本最大の弱点は「AIの頭脳」
日本の弱点は、機械そのものではなく、ロボットを動かす汎用AIである。日本はモーター、センサー、減速機、機械制御には強いが、ロボット向け基盤AIや学習データの蓄積では弱い。つまり、優れた身体は作れるが、それを汎用的に動かす頭脳が不足しているのだ。
従来の日本の産業用ロボットは、「決められた場所で、決められた動作を、極めて正確に繰り返す」ことを得意としてきた。しかし、これからのヒト型ロボットには、「見たことのない物を認識し、人間の指示を理解し、自分で作業手順を考え、失敗したらやり直す能力」が求められる。
そのためには、大規模な視覚・言語・行動モデル、膨大な学習データ、GPUを使った計算基盤などが必要になる。この分野では、グーグル・ディープマインドやエヌビディアなどを抱える米国が先行し、中国も大規模な開発を進めている。
したがって、日本が製造業や従来型ロボットで強いからといって、そのままフィジカルAIでも優位に立てるとは限らない。これから重要になるのは、優れた機械を作る能力に加えて、AI、ロボット制御、センサー、学習データを統合する能力である。日本がかつてのロボット大国としての蓄積を、新しいフィジカルAIの競争力に結び付けられるかどうかが問われている。
日本は現在でも、自動車、工作機械、産業用ロボット、精密機械、センサー、モーターなど、フィジカルAIの基盤となる製造業で高い技術力を持っている。したがって、こうした産業基盤に支えられて、日本はフィジカルAIでも強い競争力を持つことができる、と期待するのは不自然ではない。政府も「我が国の強みを生かせるフィジカルAIやロボットのデータ基盤」を整備する方針を示している。
日本がフィジカルAIで勝つための最後の宿題
日本政府は2025年からAIロボティクス戦略の検討を本格化させ、2026年には「AIロボティクス戦略」をまとめた。研究開発だけでなく、製造、物流、介護、医療、建設、災害対応などで実際に導入し、社会実装を進める。また、地域や中小企業への導入を支援する「RINGプロジェクト」も開始された。ただし、戦略を作っただけでは追いつけない。実際の現場に多数のロボットを導入し、失敗を含む行動データを大量に集める必要がある。
日本のロボット技術は、衰退し、消えたわけではない。基盤では現在も非常に強い。
しかし、ヒト型ロボットをめぐる新しい競争では、優れた機械を作るだけでは足りない。AI、ソフトウェア、データ、量産、サービス事業までを一体化する必要がある。その総合力で、日本は現在、米国、中国に後れている。
日本の課題は、世界有数のロボット製造技術に、世界水準のAIをどう結び付け、実際の市場をどう作るかにある。
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