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  • 2019/08/07

野口悠紀雄氏:金融の未来はどう変わるのか? 中国で台頭する「デジタルレーニン主義」 (2/2)

FinTech Journal創刊記念インタビュー

“デジタルレーニン主義”の台頭も可能にする中央銀行の仮想通貨発行

 ただ、技術的にはたぶん可能で、中国では前記の2つの点は問題にならない可能性があります。

 したがって、世界で中国だけがブロックチェーンを用いた中央銀行通貨を発行する可能性があります。

 これにより、中国は、決済・送金において世界で最も効率的な経済を作り上げるかもしれません。現在でも中国は、AlipayやWeChat Payが使われているために送金が便利になっているといわれていますが、それとは比較にならない状況になるのではないでしょうか。

 中国だけが、といいましたが、それは政府ではなくて、支配者ひとりです。つまり習近平ということですが、すでにそういう仕組みを確立しつつあるといわれています。

 ただ、これは今お話した中央銀行の仮想通貨を通じてではなく、もっとほかの、AIを用いた信用スコアリングで行われています。

 このような支配は、デジタルレーニン主義、デジタル共産主義ともいわれます。ジョージ・オーウェルが『1984年』という小説の中で、ビッグブラザーという権力者のことを描きました。

 テレスクリーンという手段を通じて国民の一人一人を監視するのですが、オーウェルの時代には人手がかかりすぎて実際にそのようなことはできませんでした。ところがAIを使えば可能で、それが今、中国で現実になりつつあるのではないかということです。

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保険業界はAI活用により、すでに重要な変化が起きている

 フィンテックによって金融業に起こる変化は銀行の送金業務だけではありません。私は重要な変化が保険業界に起こっていると考えています。

 保険の分野で起きていることは2つあります。1つ目は、AIの導入によって個人ごとに異なる保険料を設定できるようになること、それから2つ目はブロックチェーンを用いた分散型の保険の登場です。この2つは非常に大きな変化です。保険の世界を大きく変えます。

 まず、AIによって、保険契約者それぞれに異なる保険料が設定できるようになります。その1つが「テレマティクス保険」といわれるものです。

 自動車保険の場合を考えてみましょう。これまで、事故を起こすと保険料が上がるというような、過去の運転状況で一定の調整はなされてきましたが、あまり細かくは変わりませんでした。

 つまり、大まかに言えば、保険料というのは平均値によって設定されています。このため保険は、昔から非常に深刻な問題を抱えてきました。それはモラルハザードです。保険によって守られているために、事故に対する備えが不十分になってしまうのです。たとえば乱暴運転をやめないということです。

 これは、事故を起こした場合に保険料を高くする程度では防ぎ切れません。そのために事故が増えて、全体の保険料も上げなければならず、保険会社の採算も悪化するという問題を引き起こしています。保険という制度が登場してから何百年がたちますが、保険業界はこの問題を今日まで抱えてきたのです。

 ところが、テレマティクス保険によって、保険料を非常に細かく設定することが可能になりつつあります。自動車保険でいえば、自動車にセンサーを置いて運転状況を詳しくモニターし、その人が優良な運転手かどうかをAIが判断します。

 こうした情報によって保険料を変えるわけです。テレマティクス保険はすでに日本でも存在します。

 医療保険分野でも始まっていて、たとえば中国で行っていることですが、テンセントが体に装着するセンサーを開発し、これで情報を測定可能になりました。ここから収集する情報によって、医療保険の保険料や保険金を決めるのです。健康に留意している人であれば、保険料が安くなる、あるいは保険金が高くなるという具合に、インセンティブが与えられるわけです。このような保険も実際に登場しています。これらは保険の世界を大きく変えるでしょう。これがAI利用による新しい保険です。

 もう一つは、ブロックチェーンを使った保険です。これによって事業を分散的に進められるようになります。保険会社という管理主体が不要になる世界が訪れるわけですが、この先は後編でお話しましょう。

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