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  • IBOR移行を巡る動向と実務上の論点、2021年までに何に取り組むべきか

  • 2019/10/18

IBOR移行を巡る動向と実務上の論点、2021年までに何に取り組むべきか

LIBOR(London Interbank Offered Rate:ライボー)をはじめとするIBOR(銀行間調達金利指標)は、2012年のLIBORなどの不正操作問題以降、FSB(金融安定理事会)やIOSCO(証券監督者国際機構)などにおいて、改革の取り組みが行われている。しかし、2017年7月の英国のFCA(金融行為規制機構)のアンドリュー・ベイリー長官による「LIBORの未来」というスピーチのなかで、インターバンク市場における取引量の減少がLIBORの持続可能性に疑義を生じさせており、すべてのLIBORのパネル行に対し、2021年末まで、自主的にLIBORを維持することに同意し、また、それ以降はLIBORへのレートの呈示を強制しない旨の発言をしている。英国だけではなく、FSBや米国のCFTC(商品先物取引委員会)などもIBORの移行について言及しており、2021年末に向けたIBOR移行の動向に注目が集まっている。

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング ディレクター 緒方 兼太郎

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング ディレクター 緒方 兼太郎

東京大学法学部卒 パリ・ドーフィン大学MBA取得 米国公認会計士 外資系金融機関において、カバードボンドや証券化商品、OTCデリバティブに関連する業務に従事。現在は、金融機関などに対して、IBOR移行やデリバティブに関する規制対応やガバナンス・リスクアペタイトフレームワーク高度化、サードパーティリスク管理高度化、アンチ・マネーローンダリング対応支援、再建計画の高度化などのアドバイザリー業務を提供。

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IBOR移行を巡る議論が活発化しはじめている
(Photo/Getty Image)

各国で進む移行の検討

 IBORは市場において慣習的に使用が拡大してきたことから、従来のバーゼル規制などの規制対応と異なり、IBOR移行は金融当局などが定めるものではなく、あくまで市場参加者を中心とした取り組みであることに留意が必要である。

 このため、市場における活用の広がりにより、IBOR移行のスピードが変わりえることが想定され、市場動向を踏まえ、適切に対応していくことが重要である。以下では国別にこれまでの取り組みや現状をまとめた。

〇米国
 2014年11月に、FRB(連邦準備理事会)は、ARRC(Alternative Reference Rates Committee)に対し、代替参照レートの特定などを委嘱し、2017年6月に、ARRCは、米国債のレポ取引に基づくSOFR(Secured Overnight Financing Rate)を代替参照レートとして提言している。

 SOFRは有担保翌日物レポ取引に基づいた金利指標であり、GCF(General Collateral Finance)レポ取引、トライパーティレポ取引、FICC(Fixed Income, Currencies and Commodities)精算バイラテラルレポ取引を基に算出される。

 2018年3月に、既存契約への影響を最小限にとどめることや市場の十分な厚みを確保することなどを目的として、段階的移行計画(Paced Transition Plan)が公表されている。本移行計画を踏まえ、2018年4月にSOFRの公表が開始され、同年5月にSOFR先物(1か月物、3か月物)の上場が開始されている。

 フォールバック条項については、ARRCは、2019年4月に米ドルLIBORに係る変動利付債およびシンジケートローン、同年5月にバイラテラルローンおよび証券化に関する最終的な推奨を公表し、同年7月に変動金利付住宅ローンに関する市中協議を公表している。

〇英国
 2015年3月にイングランド銀行は、英国における代替リスク・フリー・レートの特定および導入のために「Working Group on Sterling Risk-Free Reference Rates」を設置した。本ワーキンググループは、2017年4月に、見直し後のSONIA(Sterling Overnight Index Average)を代替リスク・フリー・レートとして提言している。

 SONIAは無担保翌日物金利であり、2018年4月に、イングランド銀行が見直し後のSONIAの公表を開始している。

 2018年9月に、FCAおよびPRA(健全性監督機構)は、監督する主要な銀行および保険会社のCEOに対し、LIBORから代替金利指標への移行のための準備などを求めるDear CEOレターを発出している。

 2019年6月以降、Associated British Ports(ABP)が、LIBOR参照社債について、社債権者集会を経て、LIBORからSONIAへの切り替えを実施、NatWestが初のSONIA参照ローンを実行するなど、市場における代替リスク・フリー・レートの適用が進みつつある。

〇ユーロ圏
 2017年9月に、FSA(金融サービス市場機構)、ESMA(欧州証券市場監督機構)、ECB(欧州中央銀行)およびEC(欧州委員会)は、「Working group on euro risk-free rates」を設置した。本ワーキンググループは、2018年9月に、ESTER(Euro Short-Term Rate)をユーロ圏におけるリスク・フリー・レートとして提言している。ESTERは、ユーロシステムで利用可能なデータに基づき、ユーロ圏における無担保翌日物を反映したものであり、ECBは2019年10月までにESTERの公表を開始するとしている。

 ユーロ圏では、翌日物金利としてEONIA(Euro Overnight Index Average)が、ターム物金利としてEURIBOR(Euro Interbank Offered Rate)が活用されており、それぞれについてリスク・フリー・レートへの移行の議論が進められている。

 EONIAについては、本ワーキンググループは、2019年7月にフォールバックレートとしてESTER+8.5bpsとすることなどを提案し、同年8月にキャッシュプロダクト及びデリバティブについてEONIAからESTERへの移行に伴う影響に関する報告書を公表している。

 EURIBORについては、2019年5月にパネル行がハイブリッド方式への移行を開始し、同年7月には、ベルギー当局であるFSMA(Financial Services and Markets Authority)がEMMI(European Money Markets Institute)を、EUベンチマーク規則に基づき、EURIBORの運営者として認可している。

〇日本
 2015年4月に、日本円のリスク・フリー・レートを特定することなどを目的として、市場参加者による「リスク・フリー・レートに関する勉強会」が設立された。本勉強会は、2016年12月に、TONA(無担保コール翌日物レート)を日本円のリスク・フリー・レートとして特定している。TONAは、短資会社が提供する情報を基に、日本銀行が算出・公表するものである。

 2018年8月に、日本銀行を事務局とする「日本円金利指標に関する検討委員会」が設立されている。本検討委員会は、円金利指標の適切な選択と利用に関する基本的な考え方の整理や具体的課題とその対応策の整理、円金利指標の使用を可能とする枠組みに移行するための契約の策定を目的としており、貸出サブグループ、債券サブグループおよびターム物金利構築に関するサブグループを設立し、実務的または専門的な観点から検討を行っている。

 2019年7月、本検討委員会は、代替金利指標の選択肢やフォールバック、マルチプルレート・アプローチのもとでの金利指標の使い分けなどについて市中協議を公表している。また、同年8月に、ターム物RFR金利の算出・公表主体に対して実務的なサポートを行うターム物RFR金利タスクフォースを設立し、ターム物RFR金利の算出・公表にかかる全体スキーム、取引データ・気配値データのフロー、当該金利の詳細な算出方法など実務的な事項のほか、ターム物RFR金利の算出・公表主体の選定にかかる事項などについて検討することとしている。

〇国際スワップ・デリバティブ協会
 ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)は、2018年7月にデリバティブ取引に係るIBORのフォールバックに関する市中協議を開始している。本市中協議は、英ポンドLIBOR、スイスフランLIBOR、日本円LIBOR、TIBOR、ユーロ円TIBORおよびBBSWを対象とするものである。

 本市中協議においては、(1)「リスク・フリー・レートのターム構築に関する検討」について4つの方法が、(2)「スプレッドの計算方法の検討」について3つの方法が提案された。

 2018年12月に市中協議に対する具体的なフィードバックの概要が公表され、上記(1)については、圧倒的多数が後決め複利を支持し、上記(2)については、大多数が過去の平均値・中央値アプローチを支持していることが示された。

 2019年5月に、米ドルLIBORなどのフォールバックに関する市中協議を開始し、同年9月に市中協議に対するフィードバックの概要が公表され、圧倒的多数が後決め複利及び過去の平均値・中央値アプローチを支持していることが示された。

 これらの市中協議を踏まえ、2019年9月に、後決め複利と過去の平均値・中央値アプローチによるスプレッド調整の手法に関する市中協議を公表している。

 また、2019年5月には、LIBORなどのフォールバックに係る「pre-cessation trigger」について市中協議を公表している。

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各国政府当局によって対応方法はわかれている
(Photo/Getty Image)

多岐にわたる実務上の課題

 筆者が所属するEYでは、IBOR移行に伴う影響の重要性を踏まえ、米国や英国の専門家を含むグローバルの分野横断的なチームによる支援態勢を構築している。EYにおけるグローバルの経験、知見に基づき、IBOR移行への取り組みについて記載していきたい。

〇契約の更改および顧客への説明
 IBORを参照するさまざまな金融商品に関する契約の更改と顧客への説明が、主な法務上の課題になると考えられる。

 具体的には、IBORを直接的又は間接的に参照する契約の特定、更改が必要となる契約の特定を行うとともに、各ビジネスの顧客に対するアウトリーチの方法を検討することが必要となる。

 また、金融機関だけでなく、事業会社を含むエンドユーザーなどが幅広く関連してくるため、市場におけるIBOR移行の認識や理解の向上が、市場を通じたリスク・フリー・レートの導入にとって重要である。既存契約の更改においては、IBORとリスク・フリー・レートとの間の差異に伴う価値移転(バリュー・トランスファー)に留意する必要がある。

 非清算店頭デリバティブについては、ISDAがフォールバックに係る新たなプロトコルを公表することにより、デリバティブ契約の更改を円滑に進めることを促すことになると想定されるが、契約の標準形式が定まっていない金融商品については、既存契約の更改が課題になると考えられる。

【次ページ】IBOR移行のための態勢整備

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