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- 2019/10/15 掲載
「デジタルとグローバル展開が2本柱」日立 金融ビジネス CEOに聞く金融IT事業戦略
収益だけでなく、データでも「三方良し」を実現するべき
この1年、我々は事業戦略で「攻めのIT」「守りのIT」というキーワードを掲げてきました。「攻めのIT」というのは、新しい収益に貢献できるITで、「守りのIT」というのは業務効率改善のためのITです。2つは車の両輪で、双方バランスを取りながらループを回しながら進めていくのが重要です。
では金融分野での「攻めのIT」「守りのIT」とは何か。日立が取り組んだ「攻めのIT」で典型的な事例としては、東京海上日動と協創し、実際に石油化学プラント事業者にも導入された「IoT保険サービス」があります。
エンドユーザー企業(事例では石油化学プラント事業者)がこの保険を契約するにあたって、日立側はIoTとAIを使ってプラント設備の故障を予兆するサービスを提供するとともに、もし臨時点検が発生した場合はそれに要した費用をエンドユーザー企業に補償します。この費用は後ほど東京海上日動から保険金という形で日立側に支払われます。
エンドユーザー企業にとっては、突発的な費用発生を気にせずに予兆保守を行うことで、操業停止時間を抑えられるという利点があります。一方、東京海上日動はAIやIoTからデータを得られることで、新しい保険商品の開発が加速できます。
日立にとってのメリットは、「Lumada(ルマーダ)(注1)」を導入いただくとともに、Lumadaの製造業向けデジタルソリューションの拡充につなげることができる点です。
つまり、この事例はエンドユーザー企業と東京海上日動、そして弊社の「三方良し」を実現したと言えます。
さらに、この中で重要なのは、データをはじめとする知財や成果を誰がどう保有・あるいは共有するのかということです。
これからのデジタルビジネスはお金のやり取りだけでなく、データを正しく共有していかなければ、よい関係のビジネスができないと思っています。
今後、東京海上日動とは修理費用や点検中の休業費用まで補償範囲を広げた保険を共同で開発することも検討しています。
「守りのIT」を「攻めのIT」につなげる
次に、金融領域での「守りのIT」についての代表的な事例が、カブドットコム証券での取り組みです。同社が機関投資家に対して株式などを貸し出すストック・レンディング(株券等貸借取引)業務について「Hitachi AI Technology/H」を導入していただきました。証券会社には、個人投資家から借り入れた株を機関投資家に貸し出すレンディング・トレーダーという仕事があるのですが、カブドットコム証券の場合、投資家との交渉は1日平均で約500件にも及び、すべての貸出依頼に応えることが難しかったそうです。
中でも「保有している株をいくらで貸し出すか」という貸出レートの算出作業は時間がかかってしまい、その間に他の証券会社から借りられてしまうケースもありました。
そこで、貸出レート決めの作業に日立のAIを適用し、貸出レートの算出時間を短時間化することで、レンディング・トレーダーの業務を効率化しようということになったのです。
そして、この取り組みはレンディング・トレーダーの業務を効率化するという「守りのIT」だけではなく、貸出レートの算出時間を短縮化することで、他の証券会社に流れていた機会損失を防止し、売上向上にも貢献したのです。
「守りのIT」から「攻めのIT」につなげることができた好例だと思います。個人的には守りであっても、そこから攻めに必ずつながっていくと思っています。
そして、「攻めのIT」も一定期間が経てば、コモディティ化してきて「守りのIT」となります。そうなれば、さらに攻めるためのDXをいろいろと考えていく必要があります。したがって「攻めのIT」と「守りのIT」は両輪ということができるのです。
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