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- 2020/05/11 掲載
IBMやMS、AWSが門戸を開く量子コンピュータ、なぜ金融機関に有効なのか?
なぜ量子コンピュータが盛り上がっているのか
湊氏は、量子コンピュータやソフトウェアを開発するベンチャー企業(MDR)を経営しており、同社は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が開催した「第3期 MUFG Digital アクセラレータ」で準グランプリを受賞している。量子コンピュータ業界のビジネスモデルは非常にシンプルで、基本的にはライブラリ、オープンソース、SDKといった量子コンピュータを作るためのソフトウェアを使って、各社向けにアプリケーションを開発している。
現在、日本を含め全世界的に量子コンピュータが流行っており、世界中のベンチャー企業が同じ土俵で戦っている。日本のコミュニティも大きく育っていて、ダウンロード数も参加している開発者数も非常に多い。開発者の情報交換も活発で、盛り上がっている状況であるとした。
また、量子コンピュータの分野はアカデミズム色が非常に強く、業務をしながら論文を書くこともある。一方で、ビジネスにどう応用できるかについては、大学と企業面がタッグを組んで日々進めているとした。
2020年、さまざまな量子コンピュータが登場
そもそも、量子コンピュータとは何か? 湊氏は、量子コンピュータとは「粒子としてのビットと波を任意に切り替えて計算する、新しい計算機」であると表現している。従来のコンピュータは0と1を1個ずつ順番に計算するが、量子コンピュータでは0と1を重ね合わせて三次元の「波」に変換し、その波を一か所に重ねることで複雑な計算をまとめて計算する。その波を元に戻せば計算が終わっているという仕組みだ。
量子コンピュータには現在、従来のコンピュータと比較的互換性がある「量子ゲート方式」と呼ばれる「汎用型」と、一部の計算に特化してより高速で大きな問題(組合せ最適化問題)が解ける「量子アニーリング型」がある。
2019年には、グーグルが「量子超越(現形式のコンピュータの性能の限界を、量子コンピュータが超越すること)」を達成したという大きなニュースが流れた。
これは、世界最大のスーパーコンピュータと、1~2センチ角の小さなチップの量子コンピュータを対決させた結果、スーパーコンピュータで1万年かかる計算を、量子コンピュータは200秒で終わらせ、その性能と可能性を示したというもの。しかし、量子コンピュータは低温で運用する必要があるなど、“実験施設”のような設備が求められる上、計算も狂いやすく通常の企業が所有することは難しい(写真)。
そこで通常、たとえば一般に向けて発売されているD-Waveの「量子アニーリング型」量子コンピュータを実務で利用する際などは、米国の北米やカナダに置いてあるマシンをインターネット経由で使う方法を採用するという。
これまでD-Waveに代表される「量子アニーリング型」が企業向け選択肢の中心だったが、最近では、原子を空中に浮かせてレーザーで撃つ「イオントラップ方式」、光ファイバーなどを使った「フォトニクスマシン」など、新しく多様な方式が市場に投入されている。
2020年、IBMやAWS、MSが量子コンピュータの門戸を開放
また、2020年からは、大手IT企業が量子コンピュータを低価格で契約しやすくし、広くユーザーに門戸を開放する動きもあるという。たとえばIBMは53量子ビットを使えるマシン、マイクロソフト(MS)はHoneywellとIonQの「イオントラップ型」、QCIの超電導マシン(超電導回路で制御する量子ゲートマシン)の3種類の量子コンピュータ、アマゾンウェブサービス(AWS)はカナダのD-WaveとIonQ、Rigettiの3種類の量子コンピュータを提供している。
いきなり本物の量子コンピュータを使うのはハードルが高いので、まずは手元のPCにシミュレータのツールを入れて開発する手法もある。うまくいったら本物の量子コンピュータにインターネット経由で問題を送信すればいいわけだ。
量子コンピュータは、まだ初期段階で、あまり“大規模な問題”は解けない。問題を“細切れ”にして、それぞれをシミュレータにかけ、うまくいったら同じく問題を“小さく”して量子コンピュータの実機にクラウド経由で計算を投げ込むという手順を踏む。つまり現在でも、ある意味においてはソフトウェアをダウンロードすれば“量子コンピュータ”を使って開発を始めることができるのだ。
現在、主に使われている量子コンピュータのアプリケーションは、およそ4つに大別できるという。
(1)データを学習させて使う「機械学習」、(2)大量の選択肢の中から最もいいものを1つ選ぶ「組合せ最適化問題」、(3)材料メーカーが新材料を開発する際に材料計算に用いる「量子化学計算」、(4)「暗号関連」である。
課題も多い量子コンピュータ
現在の量子コンピュータの課題として、現段階ではまだ「完成しているとはいえないほど誤り(エラー)が多い点」を湊氏は挙げた。現在の量子コンピュータはアルゴリズムの作成後、デジタル化せずにアナログのまま計算を行う。その際の「誤り訂正」が実現できていないため、計算を間違えてしまう。理想的な量子コンピュータはデジタルで計算し誤り訂正も実装されるが、現在の量子ゲート方式ではエラーを回避できない。そのため、それぞれ計算できるものが変わってくる。このような現在のエラーが多いマシンを「NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantum」と呼ぶ。
ただし現在、NISQが使えないわけではない。エラー回避のために「ハイブリッド計算(量子古典ハイブリッド計算)」を使用することが主流になっている。
これは、量子コンピュータで短い計算を行い、従来のコンピュータで補正をかける作業を何回も繰り返すことで、エラーを直しながら計算すること。これにより、ある程度の実用的な問題を解くことができる。
【次ページ】なぜ金融機関に量子コンピューターが有用なのか
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