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  • 2020/05/12 掲載

なぜ景気後退時も新規事業が必要なのか、コロナ禍でイノベーションが加速するワケ

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新型コロナウイルス感染症により、我々の行動様式は大きく変化しつつある。それは企業の業績にも影響を与えており、業績を拡大する企業が皆無ではないものの、大半の企業は業績が悪化し、景気は後退すると予想される。このような状況下において、フィンテックなどのイノベーションへの取り組みに対して、企業はどのように向き合うべきなのか考察してみたい。

みずほ証券 小川久範

みずほ証券 小川久範

日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に調査を行ってきた。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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コロナ禍に対応するための新たなイノベーションが求められている
(Photo/Getty Images)

景気後退によりイノベーションがリストラ対象に?

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界中で多くの人々がウイルスに感染し、少なくない犠牲者が発生している。国内でも2020年4月8日に緊急事態宣言が発出された。まずは何よりも感染の抑止が重要であるし、そのために努力されている医療従事者をはじめとする多くの方々に敬意を表したい。

 一方、事態の収束までの時間が読めず、当初の想定よりも影響は長期に亘(わた)るとする話も聞こえてくるようになった。また、収束に向けて不要不急な活動を自粛し、その影響が明らかになってくるのに伴い、経済的損失の拡大が懸念されている。

 新型コロナウイルス感染症を起因とする景気後退が予想され、企業はコストの削減や事業のリストラに取り組むことを余儀なくされるだろう。フィンテックなどの、簡単には成果が出ないイノベーションへの取り組みが、その対象になる可能性がある。

 直近の大きな景気後退といえばリーマンショックが思い浮かぶ。当時は大手企業によるオープンイノベーションへの取り組みが現在ほど盛んではなかった。また、スタートアップはネット系を中心に数多く存在したものの、そこに資金を供給するベンチャーキャピタル(VC)は金融機関や大手事業会社のグループ会社が中心で、独立系のVCは少なかったし、ファンドの規模も大きくはなかった。

 大手企業がスタートアップに係わるケースとしては、それらVCを通じた投資が中心であった。親会社である大手企業の業績が悪化する中で、成果を上げるまで時間がかかるVC事業への風当たりが強くなり、投資回収を急かされるVCや、VC事業そのものから撤退するところが出てくる状況であった。

 投資回収の促進やVC事業からの撤退は各々の経営判断に基づくことなので、それに関して外部の者が口をはさむ筋合いはないだろう。ただし、その過程で起業家に対して株式の買い戻しを強要するなど、あまりお行儀の良くない振る舞いが散見されたようである。当時を知るスタートアップ関係者の中には、当該企業に対してあまり良くない感情を持つ人もいる。

 その後、景気が回復しオープンイノベーションがブームとなり、スタートアップとのネットワークや知見を持つ人材を大手企業が求めるようになった。リーマンショック時に悪評が立った企業からは、そうした人材は去って、社内からはスタートアップに関する知見が失われ、スタートアップとの関係構築に苦労していたようである。目先のコスト削減を優先した結果の悲劇と言えよう。

むしろイノベーションへの投資を拡大するべきか

 新型コロナウイルス感染症に起因する景気後退により業績が悪化すれば、企業はコストの削減に取り組まなければならず、スタートアップとの協業やイノベーションへの取り組みが、俎上に載ることは十分に考えられる。

 本業が苦しくなる中で、目に見える成果がなかなか上がらないイノベーションへの取り組みに対し、収益に対して責任を負う現業部門からの風当たりが厳しくなるのは仕方がないことかもしれない。

 しかし、業績が悪化したからといって、とにかくコストを削減すれば良いという訳ではないだろう。聖域なきコスト削減と言えば、不退転の覚悟で取り組んでいるようで聞こえは良いが、本当にコストを削減すべき領域と、苦しい中でも投資を継続すべき領域の選別を放棄しているだけとも解釈できる。

 むしろ景気が後退している時こそ、イノベーションに取り組むのには適しており、投資を拡大するべきだと考えることもできる。全体としてスタートアップへの投資が減少する環境であれば、投資活動を継続する企業は有望なスタートアップへ出資しやすくなる。リーマンショック時には、確保しておいた資金により有望なスタートアップへ割安に出資できた結果、その後の飛躍につながったVCがいたという。

 人材面においても、優秀なエンジニアを獲得できる可能性が高くなると予想される。エンジニアは金銭面だけではなく、自らのスキルアップにつながったり、新しい領域に挑戦できたりするプロジェクトに従事できるかを重視して職場を選ぶという。イノベーションへの取り組みを縮小する企業が増えるとすれば、そうした状況に不満を持つ人材を引き抜く好機と言える。

 今回の景気後退がどの程度の影響を企業に及ぼすかは予想が難しいが、人類が滅亡するのでなければ、いずれ景気は底を打ち、やがて拡大に転じるはずである。その時に求められるのは、新型コロナウイルスの影響により変化した世界における顧客のニーズに応えられるイノベーションである。イノベーションは簡単に生み出せるものではない以上、パンデミックの収束以前から、コロナ後を見据えたイノベーションに挑戦している必要がある。

 氷河期世代からは76世代と呼ばれる多くの起業家が誕生した。リーマンショック後には多くの有望なスタートアップが登場した。不景気の中から多くのイノベーションが生み出されてきたことに鑑みると、現在はイノベーションへの投資を縮小するのではなく、むしろ拡大を検討するべき状況と言える。

 中にはとにかくコストを削減し、キャッシュの流出を抑えなければ、そもそも景気回復まで生き延びることが難しい企業もあるだろう。そうした企業がイノベーションへの取り組みを中断するのはやむを得ないことかもしれないが、せめて知見やネットワークをもつ人材の雇用は維持することが望まれる。

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「不景気の現在はイノベーションへの投資を縮小するのではなく、むしろ拡大を検討するべき状況」
(Photo/Getty Images)

【次ページ】危機の時代はイノベーションを加速させる

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