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- 2021/03/11 掲載
ディエム(Diem)や中央銀行デジタル通貨は「マネーの世界を根底から変える」
デジタル移民を阻むもう一つの壁:送金のコスト
日本でDXを進めるにあたって、ITの専門家がネックになると言われている。その解決のために国際的なアウトソーシングが利用される可能性が高い。そこで問題となるのが、国境を越えて報酬を支払う場合の送金コストだ。前回述べた「アップワーク」などのマッチングサイトを通じるアウトソーシングは、単発的な仕事が多い。こうした仕事を時々海外に発注するのであれば、送金コストはあまり大きな問題にはならないかもしれない。
逆に、コールセンターを外国に移すような場合には、現地法人が給与を支払えばよいから、いちいち本国から送金する必要はないだろう。
しかし、その中間的な場合、つまり恒常的な雇用関係にあるスタッフが海外のさまざまな場所に点在するというような場合には、つまり在宅勤務の国際化(デジタル移民)の場合には、それらの人々に国際送金して給与を支払う必要があり、送金コストが大きな問題となる。
古くてコストが高い国際送金システム
ところが、現在の国際送金は、古いシステムだ。ここで詳しく述べる余裕がないが、送り手から受け手の間に、直接取引する銀行以外に「コルレス銀行」というものが介在し、外貨への交換や流動性の確保などを行っている。このため、事務処理に時間がかかり、コストが高くなっている。また、為替レートが利用者に不利に設定されていることに伴うコストもある。
マネーが国境を越えるのは、意外に難しい。マネーは、国際化が最も遅れた分野なのである。送金のコストが高くなってしまっては、安い労働力を使うという利点が損なわれてしまう。国際間のデジタル移民が進まない大きな理由がここにある。
「アップワーク」の場合には、支払いにはPayPalとクレジットカードや銀行振り込みなどが使われている。PayPalは、クレジットカードを用いて行う送金だが、送金者と受領者の間にPayPalが入って仲介するため、送金相手にクレジットカード番号や口座番号を知らせる必要がない。このため、安全な仕組みだとされている。
PayPalは日本ではそれほど広く使われていないが、米国では、ECサイトやWebサービスでの決済のために、広範に使われている。ただし、クレジットカードの仕組みは、もともとコストが高い。日本で報酬を受け取る手段としては銀行振り込みが推奨されているが、これは、上記のように時間がかかるし、コストも高い。
電子マネーは国境を越えられない
では、電子マネーを国際送金に使えないのか。中国で広く使われているAliPayや、スウェーデンのSwishなどのようなもので、日本にもQRコード決済の電子マネーが多数ある。スイカなどの交通系カードやコンビニのカードなども電子マネーだ。電子マネーは、基本的には銀行預金を前提にした仕組みである。銀行預金から電子マネーのワレット(電子財布)にチャージ(入金)する。それをQRコードのやり取り等で受取者に支払う。すると受取者の銀行預金が増える。口座振替と同じようなことを、もっと簡単にできるようにしたものだといってもよい。
だから、AliPayで支払いするには、中国の銀行に預金口座がなくてはならない。AliPayが日本でさほど普及していないのは、そのためだ。このように、電子マネーは国境を越えることができない。電子マネーが広く使われるようになっても、国際的なマネーの仕組みには、ほとんど影響を与えていないのはこういった事情からである。
【次ページ】仮想通貨は、簡単に国境を越える
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