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  • 2021/09/16 掲載

VISAとマスターカードが「暗号資産決済」に参画? 注視すべき2つの展開とは

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「暗号資産(仮想通貨)は決済利用に向かない」という固定観念を改める時が来ている。マスターカードやVISA、PayPalが暗号資産を利用した決済システムを整備しており、利用者も増加しているためだ。これらの取り組みでは店舗が特別な対応をせず既存の決済インフラをそのまま利用しながら、暗号資産による決済を受け付けることができるようになったという。本稿では、暗号資産やセキュリティトークン、NFTを扱うシステムを提供するGinco代表の森川 夢佑斗氏が最新の「暗号資産決済」の仕組みを解説する。

執筆:Ginco代表取締役 森川 夢佑斗

執筆:Ginco代表取締役 森川 夢佑斗

京都大学在学中にブロックチェーン事業に着手し、2017年12月に株式会社Gincoを創業。2018年に暗号資産ウォレットアプリを提供開始。2019年には暗号資産取引所向けの業務用システム「Ginco Enterprise Wallet」を開発。国内有数のブロックチェーンテック企業として、暗号資産やデジタル証券、NFTの活用に取り組む事業者を支援する。2019年には、ブロックチェーン業界を代表する起業家としてForbes Next Under30、BUSINESS INSIDER「BEYOND MILLENNIALS」などに選出。『ブロックチェーン入門』『ブロックチェーンの描く未来』(KKベストセラーズ)、『未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス』『超入門ブロックチェーン』(MdNコーポレーションズ)など著書多数。

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暗号通貨の決済はなぜクレジットカード会社に受け入れられたのか
(Photo/Getty Images)

暗号資産の決済利用が拡大している

 2021年7月初旬、国際カードブランドのVISAが50社以上の暗号資産企業との提携を発表しました。この提携はVISAカードの利用者がデジタル通貨を決済に使用・換金できるようにするものです。

 従来、ビットコインなどの暗号資産は複数の理由から「決済利用に適さない」、という指摘されてきました。この指摘は主に暗号資産の「現物」を用いた決済」に対するものです。ビットコインなどが当初「仮想通貨」として法整備されながら、後に「暗号資産」に改称されたのも、この「現物決済」の利用が進まなかったことの影響です。実際に暗号資産での現物決済には難点が多数存在します。

 代表的な理由の1つは、決済が完了するまでに時間がかかり過ぎるという点です。クレジットカード決済で金額と暗証番号を入力してから、カードを抜くまでに一定のタイムラグが生じるように、一般的に決済サービスを用いた店頭手続きはカードを専用端末に読み込んで決済指示を行って完結するものではなく、なんらかの勘定台帳システムからの承認を得ることで、ひとまずの完了となります。

 仮にビットコインを店舗決済に利用する場合、決済指図(トランザクション)が勘定台帳にあたるブロックチェーンに取り込まれ承認を得るまでには約10分を要します。これでは、約10分間レジ前で待つことになるため、現実的ではないでしょう。

 また、店舗がビットコインを受け取っても、それを家賃の支払いや商品の仕入れといった現実的な資金需要にそのまま利用できない、という問題もあります。実際に顧客からの支払いをビットコインで受け取るような状況が生じた場合、店舗は暗号資産交換業者にアカウントを開設し、ビットコインを法定通貨に両替しなくてはならないということです。

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暗号資産による現物支払い
(出典:Ginco)

 さらに、ブロックチェーン上で行われた取引は従来の金融システムで要求される水準の決済完了性(ファイナリティ)を備えていません。あくまでも「確率的に覆ることが極めて困難になった状態」を決済完了とみなすという合意のもとで運用されるシステムなのです。

 日本において厳密な決済完了性を具備しているのは日本銀行当座預金(日銀当預)と日本銀行券のみで、バーコード決済アプリなども行っているのは「支払いの指図」に過ぎない、という反論も可能ではありますが、「決済を完了させる」という処理をどの主体も担っていないブロックチェーンの技術的な仕様は従来の金融システムとは乖離があります。

 こうした理由から、たしかに暗号資産の現物決済にはユーザビリティの面からも金融システムとしての信頼性的にも不十分という指摘にはうなずく部分もあるでしょう。

 にもかかわらず、現実には暗号資産を決済に利用しようという事業者が次々に現れています。VISAやマスターカードといった国際カードブランド、ペイパル(PayPal)やスクエア(Square)といった決済サービス事業者が暗号資産に目をつけているのはなぜなのでしょうか。

暗号資産を用いた「決済ビジネス」の実態

 暗号資産の決済活用に注目が集まるのは「支払い」ではなく「清算」の領域でメリットがあるからです。

 たとえば、VISAが暗号資産事業者と提携を進めて発行するカード決済の場合、店舗が受け取る”お金”は暗号資産ではなく、店舗が普段扱っている法定通貨です。

 違いは支払いを担うカード利用者が引き落とされる残高です。従来のクレジットカードの場合、カード利用者が月末に引き落としを受けるのは銀行口座ですが、暗号資産クレジットカードの場合は取引所などの暗号資産残高がカード利用分だけ引き落としを受けます。

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暗号資産カードによる決済(清算)
(出典:Ginco)

 この構造は外貨でのカード支払いをベースに考えるとイメージしやすいでしょう。たとえば、日本人の旅行者が米国で100ドルの商品を購入するためにクレジットカードを利用したとします。このとき、店舗が受け取るのは100ドル分の日本円ではなく、100ドルの銀行預金残高となります。

 一方で、旅行者が引き落とされるのは100ドル分の日本円です。この裏側では、カードネットワークと日本の銀行、米国の銀行の間でこの取引を清算するための処理が行われています。このとき、日本と米国の銀行ネットワークをまたぐこととなり、国際送金コストや為替リスクが生じることになります。

 この精算処理に暗号資産交換業者が関与し、支払い用の残高に暗号資産を用いることによって、一連の処理は簡略化されます。

 VISAの取り組みにおいては、暗号資産カードを発行する交換業者が利用者の支払額に応じた暗号資産をVISAへ送付し、VISAは店舗の求める法定通貨を振り込むだけで、一連のカード決済が完了することになります。

 いわば、清算処理の中で行われる「銀行口座の乗り継ぎ」をなくして直行便を飛ばせるようになるということです。ここにグローバル利用が可能でP2Pにダイレクトな送金ができる暗号資産のメリットが活用されているのです。

暗号資産の「清算」領域で問題にならない3つの理由

 暗号資産を「清算」の領域に使うユースケースの場合、以下の3つの理由から冒頭で指摘される暗号資産の課題は大きな問題とはなりません。

 第一に、清算は一定期間ごとに集約して行われるため、店頭決済で生じる不便さを気にする必要がなくなります。むしろ国際送金のタイムラグに比べると大幅な圧縮が期待されます。

 第二に、店舗は既存のカード決済インフラをそのまま利用することができ、支払いも自国の法定通貨で受け取ることができます。そのため、新たな導入コストが不要です。

 第三に、ファイナリティの有無は暗号資産交換業者とVISAの間での論点となり、店頭での二重支払いなど顧客体験に影響を与える大きな問題にはつながりません。

 こうした観点から、いわば「国際的な事業者間決済通貨」の一種としてビットコインを活用するのが、現在の暗号資産決済の実態です。

 ビットコインが今のように投機的な価格高騰を繰り返すようになる以前、真っ先にこの発明の可能性を享受したのは出稼ぎ外国人による国際送金であったと言われています。

 また、ドイツの調査会社スタティスタ(Statista)のリサーチによると、現在、暗号資産の普及率首位はナイジェリア(32%)、第2位はベトナム(21%)、第3位はフィリピン(20%)で、海外送金のニーズが高い国ほど暗号資産の普及が進んでいます。

【次ページ】暗号資産決済の進化と「2つの展開」

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