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- 2022/03/01 掲載
「グリーン化」へ、各国の中央銀行の動きとは? 日本銀行が注目するポイント

所長
副島 豊氏
グリーン化への掛け声の中、中央銀行はどう振る舞うか
──1~3回まではこれまで気候変動問題に対し、どのような研究がなされているかを紹介してきました。各国の中央銀行などのネットワークNGFS(Network for Greening the Financial System)でも、気候変動への対応をやっていきましょうと声を掛けています。その結果が今後出てきて、社債購入の傾向も変わってくる可能性もあります。副島氏:そうですね。ここのところ、欧州から急速にそのような動きが出ています。イングランド銀行も社債購入でグリーン比率を上げ、石炭のセクターからは買わないなど、明確なスタンスを打ち出しています。
──ESG(環境、社会、企業統治)経営では、企業の環境への影響を、財務諸表と同様に開示する方向性です。ESGの方針を資金調達コストに反映し、環境負荷が大きな企業は資本コストが高くなっていく。それを「よし」とするのか、それとも中央銀行が逆方向に是正していくのか、そこは大きな分かれ目ではないでしょうか。
副島氏:2種類の政策をこの論文では取り上げています。マーケットが歪んだときにどうするか。
市場よりも中央銀行の方が適切な判断ができると考えるなら、市場が歪んだ分を是正するのがよい、ということになります。ここには気候変動問題やESGに関する政策意図は何もありません。これらの問題に関連して生じてしまった市場機能の低下を回復させるというだけです。
中央銀行の方が市場より「賢い」ケースとは
──中央銀行の方が市場より適切な判断ができるケースとはどのようなことを指しているのでしょうか。副島氏:市場価格について中央銀行の方が市場よりも適切な判断ができるケースは例外的ですが、存在します。たとえば金融危機破綻処理で中央銀行がLLR(Lender of Last Resort、viable(生存可能)な先に対する「最後の貸し手」)機能を実行する時です。
どこかの銀行が経営危機に直面していると市場で認識されているとします。その銀行の情報を市場は十分に持っておらず、市場参加者が疑心暗鬼になることで市場で資金調達ができなくなってしまっている。しかし、金融当局はその銀行はviableであり、一時的な資金繰り難に直面しているに過ぎないという正確な情報を持っている。そこで金融当局が協力して政策対応にあたるわけです。
あるいは、リーマンショックの時のサブプライムローンやCDSのようにマーケットが壊れてしまって流動性不足などを理由に皆が投げ売りをしていて、非合理的なプライスが付いてしまっているようなときに、市場回復のために「最後のマーケット・メーカー」、Market Maker of Last Resortをやる(筆者注「失われた20年」が示す将来への指針を参照)。そうやって市場の失敗を是正する政策はあり得ます。
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