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- 2022/02/14 掲載
日本の「平均賃金」は外国より低いのか高いのか?
賃金国際比較の難しさ
賃金の国際比較が、さまざまなところで問題にされている。ここで比較されているのは、その国の平均賃金だ。しかし「平均」とは、どのような範囲をとった場合の平均か?どの範囲をとるかによって、数値は大きく違う。なぜなら、賃金は産業、年齢、性別、学歴、就業形態などによって大きく異なるからだ。
日本の場合、全産業、全年齢、男女計、全学歴をとったとしても、正規職員の平均と非正規職員の平均では大きく違う。
「1人あたりGDP」は国際的に同じ基準で計算しているので、国際比較ができる。その場合に国際比較で問題になるのは、いかなる為替レートを使うかという問題だけだ。 しかし、賃金の場合には、さまざまな統計があり、しかも、その中でどのようなものを用いるかが問題になるのだ。
OECDの賃金国際比較のデータで、日本の賃金は、2020年において440万円となっている。この数字は自国通貨での評価なので、為替レートの問題は存在しない。また実質値であるが、基準年次が2020年なので、2020年においては名目値と一致しているはずだ。
ところが、この数字に該当する日本の賃金統計が見当たらないのだ。「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)だと、2020年の男女計は 308万円であり、だいぶ差がある(ただし、この調査で男子正規の平均は350.7万円であり、OECDの数字と近い)。
国税庁の「民間給与実態統計調査結果」だと、2020年で男女計433万だ。この数字は、OECDの数字に近い。
なお、ILO(国際労働機関)のサイトで日本をみると、賃金構造基本調査の数字が出てくる。
日本でも、統計によってこのように数値が違うのだが、外国でも同じ事情があるだろう。しかし、どのような統計のどのような範囲での平均賃金の数字を用いているのかは、わからない。
賃金の国際比較には、このような問題があるので、注意が必要だ。
前記OECDのデータでは、韓国の賃金が日本より高くなっている。しかし、韓国のデータがどのような性格のデータなのかわからない。だから、十分注意してみる必要がある。そもそも、日本と外国の賃金の高さを比較すること自体に意味があるかどうかを考える必要がある。
なお、「最低賃金」を比較することはできる。しかし、これは政策によって決められるものなので、平均賃金とは意味が違う。米国の平均賃金は日本の平均賃金よりだいぶ高いが、ILOのサイトによると、米国の最低賃金は日本より低くなっている。
賃金と1人あたりGDPはどこが違うか?
賃金の国際比較をするのは、その国がどの程度豊かかを知りたいからだ。賃金に以上のような問題があるなら、賃金を使わずに、1人あたりGDPを見ればよいではないかと思われるかもしれない。なぜなら、GDPは、国際的に統一された基準で計算されているからだ。
たしかに、1人あたりGDPは、豊かさの比較をするために、しばしば用いられる。しかし、1人あたりGDPと賃金は、意味が違う指標である。どこが違うのか?
GDPを分配面から見ると、賃金・報酬、雇用主社会保障負担(この2つの合計を雇用者報酬という)、営業余剰、資産所得、混合所得からなる。
賃金は、このうちの賃金・報酬だけだ。だから、1人あたりGDPより少ない数字になる。
このほか、社会保険料雇用主負担や資本減耗の扱いも、1人あたりGDPと賃金の違いをもたらす要因になる。
こうしたことがあるので、1人あたりGDPとは別に、賃金のデータを見ることに意味があるのだ。
1人あたりGDPで見ると、日本は韓国や台湾よりも高い数字になっている。これは、日本の場合には、賃金に対する分配率が低いからかもしれない。あるいは、減価償却の比率が大きいからかもしれない。
「生産性」とは、労働者1人あたりのGDPだ。これは、1人あたりGDPと似た指標だ。ただし、分母が、総人口ではなく、労働者数になっている。
しかし、分子である1人あたりGDPには営業余剰などが入っているから、必ずしも労働者家計の生活状態を表わしているとはいえない。
ただし、仮に分配率に国によってあまり大きな違いがないとすれば、生産性は、賃金に比例する数字になっていると考えることができるだろう。
これについても、OECDの数字がある。日本の数字は、OECD加盟国中でかなり低く、韓国より低い。ただし、これは2010年基準の購買力平価による実質値なので、注意が必要だ。
【次ページ】伸び率の比較は意味がある
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