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  • 2022/05/20 掲載

ステーブルコイン/デジタルマネー/CBDCの違いとは?デジタル決済の技術基盤をわかりやすく詳解する

連載:福泉武史の新フィンテックウォッチ

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2022年2月、インド財務省はデジタルルピーを2023年度に発行する計画があることを発表した。いよいよ、中国、カンボジア、ブラジル、メキシコに続き、インドも中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の発行に向けて動きだしたほか、米国、日本、英国など先進国においてはステーブルコインが盛り上がりを見せている。こうしたデジタルマネーの流れと切っても切り離せないのがデジタル決済だ。今回は、前回の記事で分類したうち、⑥ステーブルコイン、⑦デジタルマネー、⑧CBDCの動向と、これらが立脚する第三世代技術の本質的なインパクトを考察する。

執筆:サイバー大学 取締役 教授 福泉 武史

執筆:サイバー大学 取締役 教授 福泉 武史

メーカー在籍時代から、テックスタートアップの発掘とモバイルインターネット分野の事業開発を担当。2004年ソフトバンク入社以降、グループ内の多くの新規事業立上げに携わる。FinTech, Blockchain, AI+Bigdata, Enterprise SNS, e-Learning, e-Publishing, 認証セキュリティ、WebRTC、Search Engine等の分野で、新技術による実サービス創造を推進。ブロックチェーン関連事業(2017)、レンディング事業(2016)、電子書籍事業(2010)、セキュリティ事業(2008)、オンライン教育事業(2006)、モバイル広告サービス(2001)などの事業立ち上げに携わる。2015年以降、金融分野におけるMobile P2P革命を目指して活動中。

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図2:貨幣の発展と歴史から見た、暗号資産、ステーブルコイン、デジタルマネー、CBDCの位置付け(図2の2は過去記事からの通し番号)

世界で広がるデジタルマネー

 中国、カンボジア、ブラジル、メキシコ、インドなどの国で中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)に向けた動きが加速する一方、米国では2022年1月にFRBがデジタルドルに関する初の報告書を発表した。それに続き、3月には「デジタル資産の責任ある開発を確かなものにする」大統領令にバイデン大統領がサインすると発表した。この中にはCBDCも含まれる。

 なお、この大統領令の対象を暗号資産や仮想通貨と誤訳するニュースが流布しているが正確ではない。この大統領令はDigital Assetsという包括的な対象を検討範囲にしており、既存の暗号資産に対する規制強化もセットになっている。

 またステーブルコインに関して、日本では円建てのステーブルコインと言えるDCJPYのホワイトペーパーが2021年11月に発表された。また、米国では、米銀による米ドルステーブルコインの発行構想であるUSDF Consortiumが2022年1月12日に発表されたほか、英国では財務省が決済用途に使われることを想定したステーブルコインの規制を定めると2022年4月4日に発表しているなど、世界のデジタルマネー発行の動きが加速しているのだ。

 デジタル決済とデジタルマネーは表裏一体のものである。ここからは、本記事トップに掲載した図(過去記事掲載図2)のうち、⑥ステーブルコイン、⑦デジタルマネー、⑧CBDCの動向と、これらを起点するような、ブロックチェーンとインターネットをベースとした第三世代の技術のインパクトを考察していきたい。


「ステーブルコイン」「デジタルマネー」「CBDC」の違いとは

 ここでは物理的な硬貨や紙幣ではないデジタル処理されるものをデジタルマネーと総称する。そのため、図表のうち④銀行預金も第二世代のデジタルマネーに該当する。ところが、④、⑥、⑦、⑧は、似て非なるものである。

 技術的に④銀行預金は、サイロ型(後述)のシステム内で記録され、流通する一方、⑥、⑦、⑧は第三世代技術をベースに開発されている。

 USDC、USDTなどの⑥ステーブルコインは、暗号資産(仮想通貨)の世界からきている。⑥ステーブルコインは、パブリックブロックチェーンをベースとしたものであり、参加はオープンで参加者は平等である。また、⑤暗号資産と同様に、中央集権型取引所(CEX:Centralized Exchange)、または分散型取引所(DEX:Decentralized Exchange)によって、ほかの暗号資産やステーブルコインと交換することができる。

 CEXは、米国Coinbaseなどの暗号資産取引所であり、ここに上場されたデジタル資産を取引することができる。DEXは、オープンソースを使ってEthereumなどのチェーン上にWalletアドレスを直接保有(正確には公開鍵と秘密鍵の保持)する方法であり、CEXを介さずに誰もがフラットな立場でデジタル資産の取引を行うことができる。

 以前のステーブルコインの記事で述べたとおり、⑥ステーブルコインは、資産運用目的(暗号資産の退避先、暗号資産取引の通貨ペア)で保有している人がほとんどのため、決済用途で流通する量は少ない。あえて、決済用途があるとすれば、贅沢品、高額品、NFT購入用途だ。これらも蓄財目的を兼ねている。なお、⑤‘NFTは、⑤暗号資産の派生系に位置付けられる。

 一方で、JPM Coin、USDF、DCJPYなどの⑦デジタルマネーは、銀行の世界からきている。④銀行預金の派生系であり、基本的に銀行口座と紐づけられたアカウント間で、法定通貨を裏付け価値とし銀行が発行するデジタルマネーが流通する。

 ⑦デジタルマネーは、銀行やそれに準じる事業者(Non-Bankも含む)が発行するものであり、発行者の信用度という観点で、それぞれの国のドメスティックな運用でスタートする可能性が高い。国境を越える場合は、互いに信用がある機関同士のグローバルコンソーシアムで使われるだろう。⑦デジタルマネーは、決済と価値の保存(預金)両方の性格を持つだろう。

 ⑧CBDCは、中央銀行が発行(保証)するデジタルマネーである。これには複数の実装形態が考えられ、直接発行/間接発行型、ホールセール/リテール対象型などに分類される。間接発行型の場合、実質的に⑦デジタルマネーとの差異は小さいが、⑧CBDCは現金と同様に、決済のファイナリティを法的に直接持たせることが可能だ。これは第一世代の紙幣や硬貨の代替となる。さらに、発行者の信用度という観点で、国内流通だけでなく、グローバル流通の可能性がある(後述)。

「Diem(旧Libra)」の位置付けは?

 一方で、メタ(旧フェイスブック)に関しては、2022年2月1日にDiem(旧Libra)の発行も諦め、技術を売却するという報道がなされた。

 Libraは、2019年6月発表当初、バスケット通貨方式のステーブルコインLibraをLibra協会が発行し、Libraコンソーシアム参加者間でグローバルに流通させる構想を持っていた。さらに将来は、これをパブリックブロックチェーン化してWalletプロバイダーの参加を広く拡大する構想も表明されていた。

 しかし、米国規制当局との折衝経緯でDiem(米ドルペッグのステーブルコイン)に軌道修正することを余儀なくされていた。つまり、メタはLibraのポジショニングで迷走したのだ。最終的にとん挫したという事実は、暗号資産の世界と、規制を守る金融の世界の「二兎を追うもの一兎を得ず」という真実を示している。

 ⑥ステーブルコインのパブリックブロックチェーンネットワークに参加している人々には、AML/CFT観点で問題のある疑いを排除できない参加者が多く存在する。朱に交われば赤くなる。ゆえに⑥ステーブルコインが発展して自然に⑦デジタルマネーや⑧CBDCになることは有り得ない。メタがメタバース空間内のデジタルマネーを発行するとしても、それは従来から存在するゲーム内トークンやNFTライクなものとしてスタートするだろう。

 ⑦デジタルマネーと⑧CBDCはブロックチェーン技術を適用するとしても、その形態はプライベート、またはコンソーシアム型のブロックチェーンとなる。⑦デジタルマネーや⑧CBDCが発展したら自然にパブリックブロックチェーン化してゆくこともないと考えるべきである。

 この領域では、ブロックチェーンの技術的な思想(改ざん耐性のある取引履歴台帳)を取り入れつつも、ブロックチェーンで一般的に考えられる暗号方式やコンセンサスアルゴリズムにはならない可能性がある。実際、中国デジタル人民元も、システムアーキテクチャーはブロックチェーンと異なる部分も多いと言われている。

 以上のように、デジタルマネーを正しく理解するには、第二世代と第三世代の技術的な違い、技術的なマイグレーション難易度、イノベーションが起こり得る分野を考察することが必要だ。

※参考:メタの記事

【次ページ】第一世代の仕組みと基盤:「現金の物理的な流通」

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