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  • 2024/01/16 掲載

政府が金融機関に示す「規範」拡大をどうみるか? 金融業以外も動向を追うべき理由

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法令上のルールとは別に、政府などが打ち出す原則を指す「規範(プリンシプル)」がこのところ、金融分野を中心に増えてきています。「柔らかい法(ソフト・ロー)」とも呼ばれるこのプリンシプルに従うかどうかは建前上、民間事業者側の自主判断に委ねられていますが、金融機関からは「処分権限を握る役所で作られたプリンシプルは、ほとんどルールと同じ」という声も聞こえます。この「規範」は実は金融業以外にも広がりを見せていますが、こうした動きをどうとらえるべきなのでしょうか。

執筆:佐野 圭一、編集:川辺 和将

執筆:佐野 圭一、編集:川辺 和将

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プリンシプルは法律のように人々の行動を方向づける力を持つ
(Photo/Shutterstock.com)

金融機関に求められる「規範」が諸刃の剣であるワケ

 行政運営には2つの異なる考え方があります。

 1つが、法律や省令などであらかじめ細かな罰則規定を取り決め、個別事例に適用していく「ルールベース・アプローチ」。もう1つが、法律のルールとは別にいくつかの主要な原則や行動規範(プリンシプル)を示し、民間側の自主的な採択を促して、主体的な自己改善を求める「プリンシプルベース・アプローチ」です。

 子供に宿題に取り掛かるよう促す場合で考えてみましょう。

 「宿題しないとゲームは禁止」と罰則規定を振りかざすのがルールベース・アプローチです。一方、「どうして宿題をしないといけないのか、一緒に考えてみよう」と呼びかけ、自主的な気づきを促すのがプリンシプルベース・アプローチにあたります。

 子供の目線ではプリンシプルの方が好ましいように思えるかもしれませんが、2つのアプローチにはそれぞれ、メリットとデメリットがあります。

 ルールベース・アプローチは罰則規定によって行動をコントロールする力がありますが、しばしばルールの抜け穴探しを誘発することもあります。プリンシプルベース・アプローチは自主性が育まれるという期待がもてる一方、ほんとうに相手の行動変容に結び付くかどうか、実効性を担保しきれないところがあります。

 さらに、プリンシプルベース・アプローチには後で詳しく説明するとおり、もう1つ懸念があります。普段から高圧的な態度で叱りつけている親がこの手法を選択すると、子供の方は、「一緒に考えようとはいうけれど、結局のところ宿題をしないと(ゲーム機を取り上げられるなど)悪いことが起きるのではないか」と疑念を抱く可能性があるのです。

 プリンシプルは主体的な成長・自己改善を促す手段になる一方で、「暗黙のルール」として受け止められるようになると処分者の裁量の無際限な拡大や、過度な忖度を常態化させることもある諸刃の剣であるといえます。

金融「3大プリンシプル」の成立経緯とは

 バブル崩壊後に発足した金融庁の行政運営は、この2つの考え方の間で揺れ動いてきました。

 1998年に金融庁の前身である金融監督庁が発足した当時、最大の課題は不良債権問題の対応でした。厳格な検査・監督体制が求められる状況下ではルールベース・アプローチが重視され、高圧的な検査官の態度からときに「金融処分庁」とも揶揄(やゆ)されました。

 不良債権問題への一次的な対応が収束に向かう中、ルール偏重への反省から、金融庁は2007年にはルールとプリンシプルの良いところどりを志向する「ベター・レギュレーション」という理念を打ち出し、その後、脱ルールベースへと大きく舵を切ります。

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プリンシプルの代表格、FD原則を構成する7項目
(金融庁作成資料より)

 2014年に機関投資家向けのスチュワードシップ・コードを、2015年に上場企業向けのコーポレートガバナンスコード素案(最終版は東京証券取引所が策定)を、そして2017年には金融機関向けの「顧客本位の業務運営に関する原則」(FD原則)を策定。

 こうして金融界、産業界を幅広くカバーする「3大プリンシプル」が揃いました。また、2019年にはルールベースの象徴ともいえる検査マニュアルが廃止されました。 【次ページ】「規範」動向を金融業界の外にいてもチェックすべき理由

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