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- 2026/05/25 掲載
エヌビディアのバンキング戦略統括に聞く「AI銀行」、人の役割と日本の戦略とは?
FINOLABコラム
FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。
前編はこちら(この記事は後編です)
AIは銀行員を減らさない──「10倍に増えた歴史」が示す本質
生成AIの普及に伴い、「銀行員は不要になるのではないか」という議論が広がっている。しかし、この見方に対し、エヌビディアでバンキング戦略を統括するエーサー・ブランコ氏は明確に異を唱える。
バンキング戦略 グローバル統括
エーサー・ブランコ氏
「1960年代にコンピュータが導入されたとき、人々はまったく同じことを言った。『もう人間は要らない』と。しかし現実はどうだったか。1980年の米国の銀行は、従業員数が3倍、資産規模は18倍にも達していた。コンピューティング技術がもたらしたのは、従業員体制を見直しながら、数十年にわたる急速な成長を実現することだった」
ここで重要なのは、「人は減らなかった」という事実以上に、「仕事の中身が変わった」という点だ。紙を動かしていた業務は消えたが、その代わりにデータを扱う仕事が生まれた。今回のAIも同様に、人間を不要にするのではなく、業務構造そのものを置き換える。
「1960年の銀行では、従業員の半分はただ紙を動かしていた。それがコンピュータによって変わった。今回は、その次の変化だ。データを扱う産業から、インテリジェンスを扱う産業への転換になる」
銀行は今、再び構造転換の入り口に立っている。消えるのは人間ではなく、人間を縛り付けていた業務そのものだ。
エヌビディアが定義する「AI Factory」銀行のAI化とは
この変化の本質は、エヌビディアが提唱する「AI Factory」という概念に集約される。従来の銀行は、データを人間が解釈し、最終的な判断を下す組織だった。しかしAIの導入により、その前提が崩れ始めている。「これまでの銀行の構造は非常にシンプルだ。データがあり、それを経営陣に見せて、人間が判断する。この構造は1961年からほとんど変わっていない。しかし未来の銀行は違う。データを見るのではなく、インテリジェンスと対話し、そのインテリジェンスを使って意思決定するようになる」
こうした変化を実装するための基盤が「AI Factory」だ。単一のAIではなく、複数のモデルやエージェントを組み合わせ、意思決定のためのインテリジェンスを生成・改善し続ける仕組みを指す。この転換に伴い、人間の役割も大きく変化する。
「今日、人間はデータセットと対話し、判断を下している。将来的には、人間はAIと対話し、判断を下すようになる。そして、この反復的なプロセスによってシステムは継続的に改善され、企業は現在の業績をさらに上回る成果を上げることができるようになるだろう」
ここで銀行員は、「インテリジェンス・フライホイール」を設計・管理することが重要な役割となる。
具体的には、与信判断モデルの設計やAML検知ロジックの調整、顧客データ統合の設計といった領域がその中核となる。
「銀行は“知能を作る工場”になる。意思決定そのものを製造する場所だ。与信判断、AML、不正検知、顧客分析――これらはすべてインテリジェンスの設計問題になる」
銀行はもはや業務を処理する組織ではない。AI Factoryを通じて知能を生み出し続ける組織へと変わる。
「これは単なる効率化ではない。銀行を再設計する話だ。だから『AIでコストを削減する』という発想のままでは、この変化にはついていけない」 【次ページ】人材は2極化する──「制度作る側」と「価値を届ける側」
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