• 2026/06/12 掲載

なぜFFGは「地銀の常識」を捨てたのか? 五島社長に聞くAI・BaaS時代の銀行戦略(2/3)

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銀行員の仕事が激変 「ゼネラリスト対専門人材7:3」の実態

 事業ポートフォリオを変えるなら、人材ポートフォリオも変えなければならない。

 FFGが第8次中計で示した「専門人財比率を現状から引き上げ、将来的にはゼネラリスト対専門人財の構成を7対3にする」という方針は、しばしば「銀行員の仕事がなくなる」という文脈で語られる。

 しかし五島氏の説明は、その理解とは少し異なる。まず「専門人材」の定義そのものが、語る文脈によって変わる。狭く捉えれば、新しい人事制度で設けるプロフェッショナルコースに該当する人材、つまりデジタルや投資銀行、市場、M&A、データサイエンスといった領域の専門家だ。

 しかし広く捉えれば、商業銀行の現場においても「課題を問う力」「深掘りする力」を持つ銀行員自体がプロ人材になり得る。

「専門人財を狭く捉えたときの3割がプロになるのか、それとも商業銀行を含めてもっと広い意味でプロになっていくべしというふうに考えるなら、本来はもうみんながそういった人財になっていくべし、という話になる。定義の置き方によって比率は変わる」(五島氏)

 重要なのは、AIがこの議論の前提を変えつつあるという認識だ。

 定型処理や情報整理、資料作成、審査サポートといった業務はAIとエージェントで代替可能になる。逆に言えば、そこから解放された人間に残るのは何か。それは課題設定や仮説構築、利害調整、意思決定支援、そしてフェイス・トゥ・フェイスで「顧客が気づいていない課題まで含めて深掘りする力」だ。

 五島氏はこの変化を「酷」とは捉えていない。AIがカバーできない領域には、必ず「その人ならではの経験が裏打ちするもの」があると見る。銀行員としての経験はもちろん、人生経験そのものがAIには代替できない価値になり得る、そういう視点で、既存の人材に「もう一踏ん張り」の進化を求めている。

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「AIがカバーできない領域には、必ずその人ならではの経験が裏打ちするものがある」

 こうした人材観の背景には、FFG自身が経験してきた「生き残り」の歴史もある。2000年代の金融危機対応で求められたのは、「失敗しないこと」だった。リスクを抑え、システムを止めず、信用を守ることが最優先だった。

 しかしAI時代に入り、求められる人材像はある意味で逆に近づいている。変化を前提に、「問いを立てる」「挑戦する」「構造を組み替える」ことが求められ始めている。

 五島氏は、そうした変化を「生き残り」の延長線上で捉える。

「あの頃は、生き残るのに必死でした。でも、あれが目指すものじゃない。これをやるために、生き残らなきゃいけなかったのです」(五島氏)

「AIファーストはヒューマンファースト」である理由

 FFGは2024年4月にAI戦略グループを新設し、2025年3月にはOpenAIとの連携と「ChatGPT Enterprise」の導入を発表した。さらに2025年5月にはAIエージェント活用に向けた外部連携も進めている。

 これらを「DX推進の延長」と見るか、「ビジネスの再定義」と見るかで、その意味合いは大きく変わる。五島氏は明確に後者だと言う。

 約2年前、FFGが理念体系と長期戦略の議論を始めた当初、AIエージェントの実用化は「5年後くらいか」というイメージだったという。ところが現在、エージェントはすでに動き始めており、当初の想定より遥かに早く「目の前」にやってきた。

「DXとかデジタル化という範疇(はんちゅう)ではなくて、もうAIだ、エージェントだという世界で、ビジネスそのものの再定義をやっぱり考えなきゃいけない。我々はもうそこをAIファーストという言葉にしてやっている」(五島氏)

 ただし、五島氏はここで重要な留保を加える。

 「本当はAIファーストではないのです。ヒューマンファーストです」──ヒューマンファーストを実現するためにAIを徹底的に使い倒す、というのが真意だ。顧客に対するヒューマンファーストも、社内の業務プロセスにおけるヒューマンファーストも、AIというツールを最大限に活用することで初めて実現できる。

 具体的な活用領域としては、フロントチャネルへの実装が最優先だ。個人向けバンキングアプリ、法人向けポータル、営業担当者の管理ツール(SFA)などである。これらをAIやエージェントで一気通貫させることで、営業準備、資料作成、契約レビュー、審査サポート、情報収集といった業務の効率化が図るという。

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FFGのAI戦略
(出典:FFG報道発表)

 ただし、入口と出口には必ず人間が介在する必要があると五島氏は強調する。

 業務プロセスが一気通貫でAIに流れるようになっても、「本当に正しい指示が出せているか」「でき上がったアウトプットが適切か」というチェック、そして「顧客が気づいていない課題まで含めた真の問題解決になっているか」という深掘りは、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが必要な局面で人間が担う。

 AIとエージェントが担う範囲が広がるほど、人間が担う部分の質と専門性が問われるという構造だ。

「金融の課題をAIが解決するのは突き詰めれば超個人化への対応ではないでしょうか」(五島氏)

 FFGが「オープンアライアンス」と呼ぶ外部連携戦略も、この文脈で理解できる。

 AI活用においても、自前主義だけでは速度も専門性も足りない。「競争の肝になるところは内製、汎用的な便利さはアライアンスで」という設計思想が、OpenAIとの連携をはじめとする外部パートナーとの協業に表れている。

 自社で保有すべき機能と外部から調達すべき機能を峻別する目利き力こそが、これからの競争優位の源泉になると五島氏は見ている。 【次ページ】みんなの銀行は“実験場”であり“基盤”でもある
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