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  • 2019/08/23

キャッシュレス大国アメリカに“Payブーム”がまったく来ないワケ (2/2)

QRコードではない米モバイル決済の未来

 こうした中、決済コンサルティング企業マーケイター・アドバイザリー・グループのサラ・グロッタ部長は、「米金融関係者から、『AlipayやWeChat Pay など中国決済アプリの台頭を懸念すべきか』との問い合わせをよく受ける」と言う

 だが、そうした心配は杞憂(きゆう)に終わりそうだ。「中国決済フィンテックはQRコード」「米国決済フィンテックはスマホ非接触型」へと明確に分化する兆しが見られる。「QRコードではない米フィンテックの未来像」がすでに見え始めている。

 まず、米国におけるQRコード決済の提供は、中国人観光客に特化されたものになる。中国人観光客の人気海外旅行先ナンバー1である米国では、1人当たり約4500ドルの爆買いをする中国人のために、クレカより手数料の安いAlipayやWeChat Pay対応を行う米小売大手が増えている。大衆ドラッグストアのウォルグリーンから高級ブランドのフェンディやラコステに至るまで、利用範囲は広い。

 しかし、米フィンテックコンサルティング企業セレントのジルビナス・バレイシス上席アナリストは、「AlipayやWeChat Payの野望は、サンフランシスコやニューヨークなど入国地点の大都市圏を訪問する中国人に極めて限定されている」と分析する。

 加えて、テクノロジー面で米国が中国を安全保障上の脅威と捉えていることから、AlipayやWeChat Payが米国在住の米国人向けの決済サービスを提供できるようになる可能性が低下している。これらの中国フィンテック企業が米国市民のライフスタイルや家計上のデータを吸い上げることに当局の警戒感があると、米金融業界誌『アメリカン・バンカー』は伝えている

 事実、対米外国投資委員会(CFIUS)は1月、Alipay運営元のアントフィナンシャルによる、米国の決済企業マネーグラムの買収を阻止している。

 このアクションにより、米中におけるモバイル決済の方向性の分裂が決定的になったと言っていい。中国のモバイルフィンテックはQRコード型、米国のモバイルフィンテックはApple Payなどスマホ非接触型で発展してゆきそうだ。

銀行に挑戦する中国、共存する米国

 また、米中のモバイルフィンテックには、「銀行のビジネスモデルに対する挑戦か共存か」という、重要な違いがある。

 「AlipayやWeChat Payにおいては、銀行は使用額が引き落とされる預金口座を担当する機関に過ぎない。顧客の消費行動やデータを把握するアリババやテンセントなどのプラットフォームが、ユーザーが信用を置く対象になっている」と指摘するのは、香港の決済企業ジオスイフトのデイナ・ニーノ副社長だ。つまり、中国モバイルフィンテックは銀行の意義を相対化させてしまったのだ。

 これに対して、Apple Payなど米国型モバイルフィンテックにおいては、消費データ処理や決済の中心が銀行であることに変わりはなく、7月に発表されたApple Cardにおいても、顧客の消費行動やデータを把握・分析する役割を担うのは米金融大手のゴールドマン・サックスだ。この協業モデルにおいては、少なくとも現時点において金融機関の立場がテック大手に脅かされることはない。

 こうした中で7月に登場したのが、モバイル決済を内包するフェイスブックの暗号通貨Libraだった。米決済大手のVisaやMasterCard、PayPalがプロジェクトに創設メンバーとして参加しており、送金だけでなく決済も可能であるため、中国型のQRコード決済や米国型のスマホ非接触型決済の脅威になり得る。米国の銀行業界が慎重な態度を示しているのは、驚きではない。

 また、中国国家金融発展実験室理事長の李楊氏も7月12日、「人民元だけでなく多様な通貨に対応するLibraの登場は、AlipayやWeChat Payの優位性をも脅かすかもしれない」と述べ、中国型のモバイルフィンテックの優位性が侵食される恐れへの警戒心を隠さなかった。

 このように、米中ではお互いのモバイルフィンテックに対する警戒感が強く、両陣営におけるモバイル決済の違った方式が必要となっているのである。

 また、米国はその「モバイル決済後進性」ゆえに、完全なキャッシュレス店舗になるはずであった無人コンビニAmazon Goでも、銀行口座を持たない低所得層が現金で支払いができるように仕様が変更されるなど、新旧あらゆる決済手段が併存する「多様性のある社会」の性格が明確になってきた。

 統一性があり画一的な「先進」中国と、バラバラで多様な「後進」米国。

 フィンテックの本質が、「金融の主体が銀行からテック大手に移ること」であるとするならば、モバイル決済の実現のプロセスに表れたお国柄は、中国こそが「真のフィンテック超大国」であることを物語っているのかもしれない。
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