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  • 2019/10/10 掲載

各自治体「独自」の魅力はどこにあるのか? 地方版総合戦略をアップデートせよ 

大野博堂の金融最前線(4)

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数年前、日本各地では地方版総合戦略策定を契機に、「地方創生」がブームとなった。国が地方自治体にカネを渡し、規模の大小にかかわらず厚いドキュメントの作成を要請したことが契機となったものだ。自治体は併せて人口ビジョンを公表し、新たに導入する施策が域内の人口増にいかに寄与したかを推し量るKPIを設定した。ところが、自治体では足元の人口推移は住民基本台帳から類推することはできても、人口増減に影響を与える他のパラメータを速やかに取得・利用することができず、結果として、足元の人口増減の要因分析まで至っていないのが実態だ。今回は、自治体の政策アドバイザーも務める筆者が、日頃、自治体職員と接する中で感じる「現実の風景」を紹介しつつ、地方創生という難題に金融機関がいかに取り組むべきかを考えてみたい。

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

93年早稲田大学卒後、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。金融派生商品のプライシングシステムの企画などに従事。大蔵省大臣官房総合政策課でマクロ経済分析を担当した後、2006年からNTTデータ経営研究所。経営コンサルタントとして金融政策の調査・分析に従事するほか、自治体の政策アドバイザーを務めるなど、地域公共政策も担う。著書に「金融機関のためのサイバーセキュリティとBCPの実務」「AIが変える2025年の銀行業務」など。飯能信用金庫非常勤監事。東工大CUMOTサイバーセキュリティ経営戦略コース講師。宮崎県都城市市政活性化アドバイザー。

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地方ならではの特性や魅力を見定める必要がある
(Photo/Getty Images)

地方版総合戦略とはなんだったのか?

 2015年より、政府の新たな長期ビジョンに合致することを目的に、各自治体はそれぞれ域内の長期人口推移を「人工ビジョン」として、また、地域の実情に合致した地域性の高い施策の集合体として「地方版総合戦略」を策定した。

 そもそも膨大な基礎データの分析から新たな施策の導出まで、相応の負荷が伴う作業であり、自治体職員のリソースだけでは国から要請された期限内に計画を公表することは困難であることは明白。

 そこで、国は当該作業を各自治体が「下請け」に出すことを念頭に、コンサルを雇う費用を自治体に拠出した。その額、おおよそ1,000万円。各自治体はこのカネでコンサルを活用しつつ計画策定を進めることとなった。

 多くの自治体に共通する悩みは域内の人口減少である。東京圏などの都市部でない限り、どの地域も都市部との人の取り合い状況に陥っている。

 そこで、地方版総合戦略の中では、「他から人に来てもらう(移住・定住促進)」「域内の出生率を高める」の2点を重点課題として取り上げるケースがほとんど。

 結果として、どの自治体の総合戦略をみてもこの2つが施策の目玉となっており、「自治体名を隠して地方版総合戦略を読んでも、どの地域の自治体なのかわからない」といった、特徴のない形式的な文書が大量生産されることとなった。

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他県の成功事例は必ずしも参考にならない
(Photo/Getty Images)

飲酒運転撲滅運動が機能しなかったのはなぜか?

 筆者は自治体の政策アドバイザーも務めている。ここで参考までにちょっとしたエピソードを紹介したい。

 とある自治体は市内における飲酒運転検挙件数の増加に頭を悩ませており、飲食店を回っては飲酒運転撲滅運動ポスターの掲示を頼み込み、交通事業者には、始業時のアルコールチェックをしつこく要請してきた。

 にもかかわらず一向にアルコール検知・検挙件数は減少に転じない。これらの施策は他県自治体でも一定の効果を発揮していることが事例から確認できているとのことであったものの、当市では必ずしも有効ではなかったようだ。

 そこで、まずは所轄警察の協力を仰ぎ、匿名化した市内飲酒運転検挙データを過去2年分開示してもらうことにした。

 ところが、発生場所、運転者の属性、性別、年齢をみても共通する因子は見当たらない。ただし、一つだけ明確な特徴があった。発生時間だ。

他県自治体の成功事例は必ずしも参考にならず

 発生時間、すなわち、飲酒運転が検知された時間を指しているものだが、当市の場合、夜間の検知件数もさることながら、明確にみてとれるのは「早朝、昼間」の検知件数が際立っている点にあった。

 つまり、「飲食店でお酒を飲んで運転して帰る途中」で検挙されたのではなく、「自宅から出勤途中で検挙」「休日の昼間に自宅から出かけたところで検挙」されていたのだ。

 当市では、他県の例を参考に「飲食店での周知啓発」に力を入れていたのだが、効果が発現するはずがないことがこれをみて納得できた。

 なにしろ、飲酒運転の背景にある飲酒場所は「自宅」だったわけなのだから。

 そこで、市を挙げて家庭向けの飲酒運転撲滅の周知啓発活動に力点を移し、市の広報誌や回覧板を通じて全戸向け情報発信活動を展開した。

 この取り組みの効果は、幸いなことに数か月を待たずに結果として確認することができた。

 これは一つの好例ではあるものの、重要なことは「他県で事例があるから」と施策を取り入れても必ずしも自自治体では効果を発現しない可能性があることに気付けるかどうか、といったことである。

 とりわけ地方自治体の職員の多くは、「他自治体ではどうか?」「先進事例はないか」といった視点でひたすら事例収集にまい進する傾向がある。

 もちろん、議会答弁における材料収集の目的もあることは言うまでもないが、地政学的因子などが異なる他自治体の事例をそのままコピーしても、効果の発現は必ずしも期待できない。

【次ページ】足元で実施した施策の効果が確認できないのに・・・

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