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  • 2019/12/18 掲載

量子コンピューターや拡張現実はどのような「金融イノベーション」を創出するか?

アクセンチュア調査から紐解くフィンテック 第2回

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いま、世界にフィンテックの大きな波が押し寄せている。本連載では、フィンテック投資やイノベーションの動向について、アクセンチュアの調査を紐解いていく。第2回では、まず日本における市場及び競争環境、金融イノベーション環境について詳しく説明する。「分散型台帳」「人工知能」「拡張現実」「量子コンピューティング」はどのように金融を変えるのか。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 村上 隆文

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 村上 隆文

テクノロジーを梃子にした戦略立案を支援する組織「テクノロジー戦略グループ」の責任者。15年以上に渡り、金融を中心に複数業界にて戦略立案、トランスフォメーション、M&A/PMI等のプロジェクトに従事。テクノロジー戦略、イノベーション戦略、IT投資戦略、ビジネス・ITトランスフォメーション、大規模システム導入等に多くの知見を持つ。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」(FinTech研究会)メンバー。共著書に「フィンテック 金融維新へ」(日本経済新聞出版社)。

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量子コンピューターを始め先進テクノロジーはフィンテックをどのように進化させるのか
(Photo/Getty Images)

課題先進国としての立ち位置と日本の金融イノベーション環境

 本寄稿第1回では、アクセンチュアが公開した世界のフィンテック動向についてのレポート『フィンテックの発展と新たな社会価値の創出』の内容をベースに、日本や世界で拡大するフィンテック投資の推移、存在感を高めつつある地域に根差したフィンテック事業について論じた。

 第2回では、まず日本における市場及び競争環境、金融イノベーション環境について詳しく説明したい。

 日本の市場、競争環境は成熟化の方向にあり、消費者の同質性が比較的高いという特性がある。既存の金融サービスにアクセスできない、あるいは大きな不満を持つ消費者は諸外国に比べると少ない。こうした環境において、新しいプレイヤーによる市場参入の動きは海外に比べると低調だった。

 ただ、近年は少し状況に変化が見られ、流通サービス業やIT系企業など、一定の顧客基盤を持つ非金融企業による新サービス創出に向けた取り組みが目立つ。本業の強みを生かしつつ、フィンテックを組み合わせたイノベーションへの挑戦が注目されている。

 また、フィンテックを取り巻く環境として、もう1つ見逃せないのが「日本の社会課題先進国」としての立ち位置である。課題のあるところでは、イノベーションへの機運が高まりやすい。日本の抱える潜在的な課題に向き合おうとするプレイヤーが増えれば、その中から、世界に飛躍するフィンテック企業が生まれる余地も拡がる。

 日本のイノベーション環境については、しばしば、企業の新陳代謝が少なく人材の流動性が低いなどの阻害要因が強調される。優秀な人材が大企業に抱え込まれ、外の世界でチャレンジしようとしない。あるいは、社会の“リソースシフト(ヒトやカネ、情報などが集まる分野の移行)”が進まない、といった指摘である。

 しかし、このような状況は大きく変わりつつある。いまでは、有望なスタートアップが人材を引き寄せている。また、スタートアップを支えるエコシステムの厚みも増している。

 加えて、金融当局による後押しもある。暗号資産関連を含め、金融横断的な法整備が進められているほか、保険における子会社規制緩和など、イノベーションを加速するための環境整備が段階的に進められている。日本においても、フィンテック関連のイノベーションを促進する環境は着実に整いつつある。

金融イノベーションのグローバル展開で中国や英国、米国などが先行

 次に、フィンテックを支える金融イノベーションのエコシステムについて考えてみたい。アクセンチュアでは、イノベーション創出のステージは、イノベーションの質とスタートアップエコシステム発展が相乗効果となり、3段階で進化を遂げると考えている。

 第1ステージは、「散発的なイノベーションの創出」である。意欲と発想力のある起業家と目利き力のある独立系ベンチャーキャピタルが手を握ることで、イノベーションが生まれる。この段階ではあくまでも散発的な動きにとどまり、エコシステムが面的に広がったとはいえない。

 第2ステージは、「ユーザー利便型イノベーション量産」である。イノベーションを面的に支えるエコシステムが形成された段階である。ユーザーの利便性向上、あるいはコスト削減などにつながるイノベーションが次々に生まれる。

 過去に海外で登場したアイデアを取り入れたタイムマシン型イノベーション、金融機関とのコラボレーションによるイノベーションなどが、エコシステムに根を下ろし始める。こうした状態に至れば、資金を供給する側の考え方も変化する。スタートップはユーザー規模に応じた評価を受け、それに応じた資金調達が可能になるだろう。

 第3ステージは、「金融イノベーションのグローバル発信地」である。日本において、欧米など海外生まれのフィンテックサービスを使っている人は少なくない。逆に、日本発でグローバルに飛躍するサービスが生まれれば、国内の市場規模を超えた資金調達も可能になる。こうしたフィンテック企業が一定以上育てば、第3ステージに入ったと見なすことができる。

 国境を越える新サービスを生み出すために、斬新なアイデアやクリエイティビティが求められるのは当然だが、産官学連携によるサポートなども重要だろう。先述した課題先進国としてのポジションを生かしたチャレンジも期待される。たとえば、高齢化社会の課題を解消するソリューションが花開けば、日本を追いかけて高齢化が進む海外諸国での展開も見えてくるだろう。

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グローバルフィンテック投資の推移─地域別の動き

 上図は2016~18年3年間の国別フィンテック投資を分類したものである。投資件数の伸びは縦軸、国内の民間消費市場における存在感の大きさは横軸、そして投資規模はバブルのサイズで表している。また、薄い色で描いたバブルは2013~15年の3年間の各国のフィンテック投資を示している。

 また、この図は、第1~第3ステージの分布を示している。各ステージの定義は厳密ではないが、それぞれの国の立ち位置が直感的に分かるよう設定した。

 第3ステージには中国、英国、米国などがプロットされており、こうした国々では、自国のみならず国外でも展開されるイノベーションが生まれている。金融イノベーションのグローバル発信地ということができる。

 日本は2013~15年は第1ステージだったが、2016~18年に第2ステージに足を踏み入れた。今後の予測は難しいものの、インパクトのあるイノベーションが生まれれば、日本は意外に早く第3ステージに到達できるかもしれない。ただ、国内向けのサービス主体という状況が続けば、いずれ成長率や投資規模が伸び悩むかもしれない。

【次ページ】先端テクノロジーを用いた金融イノベーションの最新事例

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