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- 2020/04/21 掲載
なぜ日本は「金融×IoT」領域でGAFAに負けないのか
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変革には「経営刷新」が必要だ
金融機関がIoTで価値を生み出していくために、どのように「変革」していけばよいのか。松浦氏は「つとめて経営の問題です」と述べた。より、長期的な視野を持ち、高い公共性をもった経営者が求められるとのことだ。
「銀行の経営環境に大きなインパクトを与えたのは、日銀によるマイナス金利政策です。金融機関が日銀に預けている預金金利がマイナスになることで、資金を預けたままにすると金利を支払わなければならない金融機関は、企業への貸し出しや投資に資金を回すよう動機づけられました。そこで、従来とは非連続な経営施策を模索する銀行も現れてきていると感じます」(同氏)
八子氏は、トップの刷新について、2016年にドイツを訪問したときのエピソードを紹介した。航空宇宙産業を手掛けるエアバス・ディフェンス・アンド・スペースを訪ねた際、「デジタルの推進に何が一番の阻害要因になっているか」を聞いたところ、担当者は「自分のボスだ」と話したという。
「デジタル化にはあと20年くらいかかると言っていました(笑)。そこはどうしようもない部分があって、カルチャーや人事制度が劇的に変わらない限り、世代が変わらないと会社が変わらない側面があると感じさせられました」(八子氏)
デジタルに最適化された「デジタルファースト」を前提とした経営陣でないと、一部の部門だけがデジタルに取り組んでいたとしても「旧態依然とした経営体制」に引っ張られて新しい取り組みができない。金融でいえば、デジタル専門組織を作り、「治外法権的」にデジタル施策を推進するのを許容する必要があるということだ。
一方、松浦氏はこの点については楽観的な見方も示す。金融の自由化が進んだ1980年半ば以降、高度な数学的手法を用いて市場分析を行い、金融商品開発や投資戦略策定を担う専門家(クオンツ)が登場した。そうした数学的リテラシーの高い層の先陣が今、50代前半を迎えており、「経営陣に入り始めているこのような人たちが主導して金融機関として最初の変革が起こってくる」というのだ。
「たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の次期社長となる亀澤(宏規)氏は東大大学院で理学系修士課程を修了している理系のトップですよね。数学的手法を使って取引のアルゴリズムを構築し、高い収益を上げる経験を持った人材が銀行経営のトップに立つということです。私はあと2、3年で本格的な変革が起きてくるのではないかと期待しています」(松浦氏)
オープンイノベーション「遊び」で終わらないために
では、外部とのオープンイノベーションの取り組みについてはどうだろうか。松浦氏は、規制産業であり、保守的なイメージが強い金融業界は元来、外部のスタートアップと一緒に仕事をすることを受け入れるカルチャーがあったと指摘する。そのため、「リスク管理の業界でも金融機関出身の創業者が古巣の金融機関とコワークして実務を作っていくというサイクルがうまく回っている」という。「私たちの会社も、20年前は創業者4人のマンションベンチャーでしたが、当時から金融機関は取引をしてくれました。彼らは、明確な動機付けがあれば小さい会社相手でも仕事を一緒にやってくれるというのを個人的な経験として知っています」(松浦氏)
そうした横のつながりを受け入れるカルチャーが作用すれば、オープンイノベーションもうまく進んでいくとの見解を示した。
一方、八子氏は、オープンイノベーションの取り組みは、「本気で社会を動かそうと取り組んでいる」ところと、「イノベーション“遊び”をしている」ところに二極化しつつあると見る。
「産業界主導でオープンイノベーションのエコシステム構築に尽力している例もあれば、一部の銀行が取り組んでいるイノベーションプログラムのように、オープンといいながらも全然オープンではなく、イノベーションといいながら旧来のものをどう変えるかという話に終始しているように見えます」(八子氏)
そして、重要なのが、取り組みを通じて出されたアイデアが、実際の銀行業務、もしくは新しいビジネスにフィードバックされて実装される点だ。「せっかく出たアイデアが、社会システムを変えることに何ら使われていない。アイデアだけを出して社会実装が伴わないものは、要は『遊んでいるのと同じ』だ」と八子氏は厳しい見方を示す。
「企業には、当座の運転資金のような短期の資金需要から、生産ラインを作って5年で収益償還する設備資金といった長期の資金需要もあります。こうした企業活動の実態をデータとして把握できれば、さらに緻密に顧客に寄り添った与信が可能になるでしょう」(松浦氏)
【次ページ】IoTプラットフォームが経済動向まで「見える化」する
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