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  • 2020/08/31 掲載

世界で進む「オルタナティブデータ」活用、日本が致命的に後れを取る3つの理由

連載:キャスター鈴木ともみの日本橋・兜町レポート

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昨今、金融市場では経済動向や企業業績の先読みをするための新たなデータとして「オルタナティブデータ」が活用され始めています。特に資産運用においては、より速報性と確実性のある新たなデータを求め始められるため、オルタナティブデータの価値が高まっています。今回は「オルタナティブデータとは一体何なのか」「オルタナティブデータの活用で資産運用はどう変わるのか」について、KPMGジャパン・フィンテック・イノベーション部長の東海林正賢さんにお話をお聞きしました(インタビューはオンラインで実施)。

キャスター 鈴木ともみ

キャスター 鈴木ともみ

経済キャスター、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、FP。埼玉大学経済経営系大学院を修了し経済学修士を取得。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。国内外の政治家、企業経営者、金融・マーケット関係者等へのインタビュー多数。STOCKVOICE TV『Tokyo Financial Street』のキャスターを務めている。

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東海林 正賢氏
KPMGジャパン・フィンテック・イノベーション部長兼KPMGコンサルティング フィンテックイノベーション ディレクター
外資系システムで最新のテクノロジーを用いたさまざまな新規ビジネスの立上げに従事した後、2015年よりKPMGコンサルティングに入社。2016年にはKPMGジャパンフィンテック推進支援室の立上げを室長として先導。2019年よりフィンテック・イノベーション部に改組し、現在に至る。主要領域は、金融機関における新規事業やサービスの立ち上げ・実行支援、デジタル中期計画策定など。外部講演・寄稿多数。現在、慶應大学経済学部「フィンテックとソーシャルインフラストラクチャ」講座担当。

資産運用や市場分析に新たな知見を提供する「オルタナティブデータ」

鈴木(筆者):東海林さんは、KPMGジャパンのフィンテック・イノベーション部門にて、グローバル企業や国際金融市場の最新情報をもとに、ビジネスを展開されています。世界がコロナ禍にある今、企業分析や資産運用の世界では、「オルタナティブデータ」が脚光を浴び始めているようです。しかし、実践の場にでは「オルタナティブデータ」についての定義づけはまだされていません。まずは「オルタナティブデータとは何か」をお聞かせいただけますか?

東海林氏:オルタナティブデータとは、企業分析や資産運用をする際、新たな知見となりうるすべての情報のことを指します。たとえば、オルタナティブデータには、SNSのつぶやきやPOS(販売情報管理システム)の売上情報、衛星画像や気象情報など、ありとあらゆるものが含まれます。


 それは必ずしも目新しい情報でなくても構いません。企業のIR情報を例にすると、売上高や利益などの定量的な情報に限らず、テキストの部分を解析して業績につながる傾向をつかむ分析なども含まれます。

 ただし、誰もが既に知っているような情報ではオルタナティブデータであるとは言えません。なぜならオルタナティブデータには「α値を生み出す」ことが期待されています。世間に使い方が知られた瞬間に有益な情報ではなくなってしまうからです。

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オルタナティブデータの活用事例

 逆に言えば、すでに誰もが活用しているデータは価値が分かっているため、高値で取り引きされていますよね。また、まだ活用方法が知られていない情報が無料で手に入れることができることもあります。その情報が投資判断に価値を生むと分かった瞬間から、重要なデータとして高値で取り引きされるようになるのです。

 これまでにも新たな知見を提供できる情報は存在していました。しかし、その活用は個人の経験と勘を補助的に支えるものに留まってきました。人が実際に目で見て、頭でつど考えながら経験と勘に頼った判断を重視する傾向があったので、あくまでオルタナティブデータはその判断を補助するような位置づけでした。

 しかし、高度な数学的手法を用いる「クオンツ投資」や「HFT(High Frequency Traffic)」など、取引システムの高速自動処理が一般化してくると、より大きなコンピューティングパワーをかけてデータを処理することが当たり前となっています。また同時に、運用成績で他社と差別化するためには、他社が持っていない独自のデータを集めていくことに時間とコストをかけるようになってきました。

 各社が似たようなデータで同じようなロジックを用いて大量の資産運用を実施してしまうと、運用成績が低下してしまう事態が起こり得るからです。たとえば、2007年に起きた「クオンツ危機」はまさにこの事態に当てはまります。そうしたリスク回避のために、運用会社は他社の持っていない多様なデータを集めるようになりました。その分、収集負荷も高まる中では、「データプロバイダー」と呼ばれる、大量の情報を収集・加工してシステムで分析可能なデータを供給する企業も現れるようになりました。

 現在は、オルタナティブデータの種類も格段に増えていますし、コストも上がっています。大手データプロバイダーのOpimas社の発表資料によると、オルタナティブデータの市場規模は毎年20%以上の増加と見込まれています。

身近にあるオルタナティブデータの活用事例

鈴木(筆者):オルタナティブデータは具体的にどのように活用されているのでしょうか?

東海林氏:たとえば、人工衛星の撮影画像から算出した港に止まっている自動車の数から、その会社の売り上げを決算発表よりも前に推定できます。またPOSの売上情報を収集することで、「毎日どんな商品が、どのぐらい売れているのか」を誰よりも早く知って、売り上げが上昇しているメーカーを探し出すこともできます。Web上を流れるトラフィックデータを調べることで、「どんなサイトで売上が上昇しているのか」をつかむことも可能です。さらに、SNSのテキスト情報をマイニングすることで、人気の出そうなブランドを早期に把握してメーカーの業績予想にも役立てられています。

 こうした分析手法は、各企業の決算の公表前に精緻な予測をするために使われており、株式売買をタイミングよく実施する際にも使われています。

 今までは人海戦術で分析していた情報を収集し、システムで処理可能なデータとして加工して分析することで、従来は対応できなかったスピードで大量、かつ粒度の細かい情報を処理できるようになりました。

 最近では、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)が業績に与える影響を調べるために、公開されている感染拡大の状況や人流分析などを活用して、同じ業界の中でも比較的業績が良い企業を見つけることも行われています。

【次ページ】日本におけるオルタナティブデータの活用を阻む3つの課題

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