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- 2021/11/04 掲載
先進スタートアップらが語る「埋込型金融」、データの“使いどころ”はどこなのか?
Embedded Financeが実現する2つのメリット
ディスカッションの最初のテーマは、Embedded Financeにおける各者の立ち位置だ。FINOLABの柴田 誠氏からその点を問われたFOLIO の甲斐 真一郎氏は「コロナ禍の影響もあり、投資初心者が増えている印象がある」と話す。2015年に創業したFolioは、「テーマ投資」など新しい証券投資の形を提示し、またロボアドバイザーなどの投資サービスを提供している。現在、投資信託の運用手数料が下がり、個別化の取引手数料も低下傾向にある中、甲斐氏は「投資一任運用やロボアドバイザーでいうファンドラップに対するニーズが増えている」と語る。その一方、「こうしたニーズに柔軟に対応できる基幹システムは、それほど多くないのが現状だ」と説明する。
同氏によると、Folioでは、地銀向けロボアドバイザーシステムを提供するというポジショニングを志向していたが、最近では既にIFA(Independent Financial Advisor:独立系ファイナンシャルアドバイザー)経由でファンドラップを数兆円規模で提供しているような事業者を支援することに注力している。
保険業界におけるEmbedded Financeについて言及したのが、justInCaseTechnologiesの畑 加寿也氏だ。同氏は長く保険業界に携わり、フィンテックスタートアップとしてjustInCase Technologiesを設立し、現在は法人向け事業も展開している。
1つ目は「事業会社と保険会社をつなぐことで、コンバージョンレート(成約率)が高まり、顧客獲得コストが下がる」ことだ。2つ目は、「既存の保険会社のシステムを大きく改修することなく、SaaS形式で新しい金融サービスを提供すること、スピーディに低コストで顧客に価値を提供できる」ことだ。
異なる事業者が相手のサービスに相互に「組み込まれる」世界も
次に、融資事業におけるEmbedded Financeについて、クレジットエンジンの新色 顕一郎氏が説明した。同社は、オンライン融資管理システムなどを提供している。新色氏は、2つの方向性として「事業ライセンスを有する金融機関に新たな融資商品のノウハウを提供する」こと、「今まで金融事業を行ってこなかった事業会社と協業して融資事業の立ち上げを支援する」ことを示した。
前者は、中小企業向けの融資やリース、個人向け融資など融資商品の開発などでEmbedded Financeがその一形態を担うことを指す。また、後者は、事業会社が保有するデータの増加によって、新たな顧客価値の提供をフィンテック企業として支援していくものだ。
「後者の方が、より本来のEmbedded Financeに近い形態だといえる」(新色氏)
続いて、マネーツリーの立ち上げにも参加したマーク・マクダッド氏は、自社提供サービスは、直接顧客のフロントに立つよりも、金融機関のシステムとAPI接続を介する「黒子」の役割を果たしていると説明した。
「たとえば、銀行の入出金明細、クレジットカードの残高情報などのデータを別のフィンテック企業や事業会社に提供することで、事業会社経由で最終顧客に価値を提供していく」(マクダッド氏)
また、「Embedded Financeには、AWSのようなクラウドベンダーに近い立ち位置もある」という。すなわち、ある会社の提供するサービスが、さらに別の会社でサービス化されて新たな価値を生み出すという側面だ。
「APIでさまざまな企業が接続、連携されることで、ある事業者が、別の事業者が提供するサービスにEmbeddedされ(組み込まれて)価値を提供していく形態もあると考える。当社は、そうしたすべての形態を支えていきたい」(マクダット氏)
特に注目すべき領域として、同氏は資産管理形成や融資の分野を挙げる。「日本には眠っている預金がかなり多く、その意味では弊社が支援できる領域も大きいと考えている」ということだ。
マクダット氏の発言に呼応した畑氏は「日本の保険業界は岐路に立たされている」として、フロントに立って顧客に対する価値提供を直接担うのはフィンテックスタートアップが中心である現状を指摘した。
畑氏によると「保険会社は今後、保険業以外の領域でも実際に事業主体になって自分たちでサービスを開発していく必要がある。単なる機能提供だけでは顧客に価値を提供できず、ひいては顧客基盤を失いかねない」という岐路に立たされているという。
【次ページ】さまざまな金融機能が、企業を横断する共通基盤となる
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