【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
0
いいね!でマイページに保存して見返すことができます。
黒田総裁の任期満了は2023年4月8日。現時点で誰が次の総裁になるかは分からない。もっとも、日銀出身の雨宮正佳副総裁の昇格を予想する声は多く、筆者もその可能性は相応に高いと見ている。仮に雨宮氏が総裁になった場合、より持続可能な形に金利政策が修正されると予想する向きは多い。それはつまり、イールドカーブ・コントロール(YCC)の修正に始まり、最終的にマイナス金利撤回に行き着く可能性があるということだ。黒田総裁にとって事実上、最後の1年となる2022年は金融政策を「元の形」に戻しやすくするような地ならしがあるのではないか。「元の形」とは、翌日物金利(短期金利)をプラス領域で操作する従来型の金融政策を意味する。
アフター黒田政権を予想、どうなる日銀の3本柱
現在、日銀は短期金利をマイナス0.1%、10年金利をゼロ%程度とする現在の
イールドカーブ・コントロール(YCC)政策のほか、長期国債を無制限に購入する量的緩和政策と、上場投資信託(ETF)を買い入れる質的緩和政策を3本柱として位置付けている。
このうち「量」については長期国債の保有残高の増加が一服し、「質」についてはETF買い入れを事実上停止している。つまるところ「量」と「質」は看板だけ掲げている状態になっているのだ。しばしば、複雑で分かりにくいと批判される現在の金融緩和パッケージは、実のところ「金利」のみで構成されていると言って良い。
黒田総裁が新総裁へバトンを引き継ぐにあたって金融政策を整理するとしたら、長期金利のコントロールを止める可能性があるだろう。もちろん急にはできないが、その第一歩として長期金利の操作対象年限を5年に短縮することが考えられる(以下、5年YCC)。
YCCに修正が加わるかもしれない理由、「金融緩和慣れ」とは
「ザ・長期金利」ともいうべき10年金利をコントロールすることは、市場金利全般に強い下押し圧力をかけ、投資や消費を後押しする狙いがある。しかしながら、それが経済活動を刺激し、物価の上昇につながったかと言えば、少なくとも現実のデータはそうなっていない。
その要因として「金融緩和慣れ」が考えられる。これはコロナ禍における金融緩和が異常なほどの需要増加につながった米国の事例を考えると分かりやすい。
米国では金融緩和の効果の1つとして住宅ローン金利の急低下があった。消費者はこうした金利低下を好機と捉え、住宅購入に積極的になり中古住宅販売件数は飛躍的に増加した。それが建材、家具、家電といった関連需要を喚起し、米GDPの約7割を占める個人消費の回復につながった経緯がある。金利低下を好機と捉えた消費者は「金利が低い今のうちに」と考えたのだろう。
他方、日本は2000年代の圧倒的大部分をゼロ金利(翌日物金利)で過ごし、長期金利(10年国債金利)は2016年9月以降0%程度となっており、貸出金利は超低水準が常態化している。普段「金利のある」米国とは異なり、日本では低金利を好機と捉える向きは多くない。したがって長期金利を0%程度に据え置くことで得られる追加的な景気刺激効果は限定的と考えられる。副作用を伴い、効果の乏しい金融緩和をいつまで続けるのか、そろそろ日銀内部でも「点検」の必要性が議論されるのではないか。
【次ページ】YCC修正を裏付ける要因とは?