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長期金利がジワジワと上昇している。今のところ各国の中央銀行は緩和姿勢を崩しておらず、このまま一直線に金利が上昇するとは考えにくい。だが、量的緩和策の実施以後、10年以上にわたって異常な低金利が続いており、いつかは金利が上がる。諸外国と異なり、日本経済は低金利を前提とした構造になっており、金利上昇リスクに極めて弱い。金利が上昇する可能性について、そろそろ意識しておく必要があるだろう。
「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」の違い
このところ、米国の債券市場で金利の上昇が顕著となっている。長期金利の指標となる10年物米国債の利回りは、コロナ危機以降、急低下しており、一時は0.5%台まで下がっていた。だが2020年の後半から反転上昇を開始し、年明け以降、そのペースが加速。瞬間的に1.6%台を付けるなど、金利上昇が顕著となっている。
日本の長期金利も米国に合わせて上昇しており、これまでほぼゼロ近傍に張り付いていた10年物国債の利回りは0.15%を突破した。経済成長が著しい米国と比較すれば、まだまだゼロ金利状態に近く、0.15%突破後は再び0.1%を割ったが、それでも、ここまで急激な上昇を見せたのは近年では珍しい。
金利というのは非常に分かりにくく、株式投資をしていても金利には無関心という人が多い。だが長期金利の動向は、経済や市場の先行きを示すもっとも重要な指標であり、常に細心の注意を払う必要がある。
今回の金利上昇について分析する前に、まずは金利上昇が何を意味しているのかおさらいしてみよう。
ある程度の時間軸で見た場合、長期金利というのは、基本的に名目GDP(国内総生産)の成長率に収れんする。長期金利が上昇したということは、市場参加者は今後、名目GDPが増えると予想していることに他ならない。名目GDPというのは、数量ベースのGDP(つまり実質GDP)に物価の動きが加わったものなので、名目GDPが増えるということは、経済活動が活発になって取引が増加するか、物価が上昇するのかのどちらか、あるいはその両方ということになる。
経済活動が活発になれば、自然に物価も上がっていくので、景気が順調に拡大している場合には、それに合わせて長期金利も上昇していく。好景気を背景とした金利上昇の場合、株式市場にはそれほど大きな影響は与えない。景気拡大に伴う金利上昇は「良い金利上昇」と見なして良いだろう。
一方、経済はそれほど回復していない状態で、物価だけが上がる状況下でも金利は上がる。この場合は、実質GDPは成長せず、物価だけが上がる(つまりインフレ)なので、株式市場にはマイナスの影響を及ぼす。これは前者との対比で考えれば「悪い金利上昇」ということになる。
足元の金利上昇は、良い金利上昇か?
では、今回の金利上昇の背景にはどのような事情があるのだろうか。現時点では経済活性化への期待と物価上昇懸念が入り交じった状況であり、良い金利上昇なのか悪い金利上昇なのか判断することはできない。
経済の活性化期待は、説明するまでもなくコロナ後の景気回復を見据えた動きである。日本ではスケジュールの遅れが懸念されているが、先進諸外国ではワクチンの接種が始まっており、効果が完全ではないにしても、感染の抑制が期待できるようになってきた。企業にとって先の見通しが立つことの意味は大きく、一部の企業はコロナ後を見据えて先行投資を実施したり、生産ラインの増強を決断している。
コロナ終息によって経済が元の状態に戻れば、当然のことながらGDPは拡大するので、それを見越して金利が先に上昇したという解釈である。
一方で、市場ではコロナ危機が悪い金利上昇を引き起こすという懸念が生じており、債券の売りにつながっているとの見方もある。コロナ対策を名目に、各国政府は前代未聞の財政出動を行っており、経済の供給力に比して需要過多になっているとの指摘も多い。
経済が持つ基本的な供給力を超えて需要を創造すれば、当然のことながらインフレを加速させる。同時に大型の財政出動で政府債務が急膨張しているので、これも通貨価値の毀損と金利上昇を招く要因となる。インフレが予想以上に進む可能性が出てきたことから、一部の投資家は債券の売却に走っているという図式だ。米国の著名経済学者でクリントン政権の財務長官だったローレンス・サマーズ氏がインフレを強く警告する発言を行ったことも、市場の動きに影響を与えている。
現時点ではどちらの見立てが正しいのかは何とも言えないが、多くの投資家は景気回復期待とインフレ懸念の両方から債券売りを行っている可能性が高い。投資家にしてみれば、金利上昇の真の原因がどちらであるにせよ、債券を保有し続けることは得策ではなく、利益が出ている債券については利益確定した方が合理的だ。
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