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  • 2023/11/17 掲載

A2Aとは何か?「中抜きで」80兆円超え、銀行のオープンバンキング化で急拡大の理由

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2021年のフィンテック企業への投資は史上最高額を記録した。しかしその後、フィンテック企業への投資は大きく落ち込み、スタートアップの評価額も軒並み下落した。そんな逆風下で急速に拡大しているのが、オープンバンキングの拡大を追い風にした「A2A(Account to Account:アカウント間の直接支払い)」だ。これはいわゆる決済の間に入る決済事業者による「中抜き」をなくす仕組みのことで、2022年は5,250億ドル(およそ80兆円)市場に拡大する見込みという。ここではA2Aの基礎とA2Aをめぐる企業動向をわかりやすく解説する。

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

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スウェーデン発の代表的なA2A企業「Brite Payments」
(出典:公式サイト

フィンテックスタートアップ投資の下落傾向は止まる兆し

 インフレによる消費減速などの経済懸念が増大する少し前の2021年、フィンテック分野への投資は前年を大きく上回り過去最高額を記録した。

 BCGが2023年9月に発表したまとめによると、フィンテック分野における投資額は、2020年第1~第4四半期にかけて、110億ドル、120億ドル、150億ドル、150億ドルと推移していた。これが、2021年第1四半期には、280億ドルに急増、さらに同年第2四半期には400億ドル、第3四半期360億ドル、第4四半期380億ドルと前年に比べ3倍近い水準を記録した。

 しかし2022年に入り状況は一変、インフレ懸念が急速に広がり、消費低迷を招いた。これによりベンチャーキャピタルの投資活動が減少、またスタートアップも売上・利益を伸ばすことができず、厳しい状況に立たされていた。

 評価額456億ドルを付け、当時Stripeに次ぐ2番目に価値あるフィンテック企業となったBuy Now Pay Later(BNPL)のKlarna(クラーナ)もこの煽りを受け、2022年7月には評価額が85%減となる67億ドルまで減少している。

 フィンテック分野におけるベンチャー投資はその後、2022年第1四半期330億ドル、第2四半期260億ドル、第3四半期140億ドル、第4四半期120億ドル、2023年第1四半期170億ドル、第2四半期100億ドルと、直近4四半期をみると、2020年の水準まで下がっている状況だ。

 この状況に対し、ベンチャー投資の下落も一段落し、底をついたと見る向きもあり、インフラ懸念の解消などに伴い、2023年第3四半期以降はフィンテック投資が徐々に増える可能性が高まっている。

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金融大手も続々とA2Aに参入している
(Photo/Shutterstock.com)

 実際、欧州のオープンバンキング関連分野でフィンテック投資が再燃しつつあるとの報道もなされており、地元動向に注目が集まり始めている。

 中でも銀行とサードパーティプロバイダ間でAPIを介して、金融データの共有を可能にするオープンバンキングへの注目が高まっている。

 Open Banking Implementation Entity(OBIE)の報告によれば、英国におけるオープンバンキングサービスの利用者は700万人を超えたという。

 英国での盛り上がりに伴い、欧州でもオープンバンキングの仕組みを活用したフィンテックサービスの利用者が急増中だ。

 Techcrunchは2023年10月4日の記事で、現在欧州では、オープンバンキングをきっかけとするフィンテックの再ブームが起こっており、Brite Paymentsなどのスタートアップへの投資が増えつつある状況を伝えている。

A2Aとは何か?なぜA2Aプラットフォームが注目されるのか

 Brite Paymentsは、前述したKlarnaの元役員であったレナ・ハッケロール氏が2019年に立ち上げたフィンテックスタートアップで、A2Aの支払いプラットフォームを開発・展開している企業だ。

 A2Aとは、「Account to Account」の略称で、サービス利用者の支払い額が、クレジットカード事業者やPay事業者などの決済事業者を経ずに、直接銀行からEC事業者などのサービス加盟店に支払われる仕組みのこと。

 EC企業がこぞってA2Aプラットフォームを利用する主な理由は、コスト削減や決済スピードにある。A2Aプラットフォームを利用することで、EC企業が負担する決済手数料は、クレジットカードよりも安くなり、また即座に資金決済することが可能となる。一方で銀行側がオープンバンキング化しているからこそ実現できる仕組みでもある。

 Worldpayが発表した「Global Payments Report」によると、デジタルウォレットは現在、世界中のECにおける最大の支払い方法になっており、そのシェアは49%に上る。またリアルタイムの支払いが可能になったことを受け、グローバルのA2A取引量は、2022年に5,250億ドルを超えたとされる。

 欧州では、Brite Paymentsのほか、同じくスウェーデン発のTrustlyなどのA2Aプラットフォームが存在し、いずれも事業が急拡大しており、それに伴う経営陣の強化などの動きが活発化している。

 消費者側でも、クレジットカード利用から、デジタルウォレット、BNPLなどの代替支払い手段への移行が顕著となっており、これもA2Aプラットフォームが活況する要因となっている。

 Brite PaymentsはシリーズAラウンドで、ロンドン拠点のDawn CapitalやHeadlineなどから6,000万ドルを調達。A2A取引の世界的な急拡大が追い風となり、同社プラットフォーム上における取引量と収益が倍増、黒字化を達成したとされる。ただし、同プラットフォームは、EU域内の25カ国で利用できるが、英国では利用できない。

 今回の調達ラウンドは、特にPayPalが22億ドルで買収したiZettleやVisaが20億ドルで買収したTinkなどに早期投資を行っていたDawn Capitalが参加したため、注目度が高まった。 【次ページ】金融大手も続々A2A関連の取り組み開始へ

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