• 2026/06/11 掲載

【松尾研究所】RAG導入はなぜ失敗? クレディセゾンに学ぶ「AI前提」の超・情報設計(2/3)

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RAGは魔法ではない…実証実験で判明した「現実」

 自社の文脈や情報をもとに生成AIが回答する技術として注目されてきたのがRAGである。外部データベースを検索し、その結果を文脈としてモデルに渡すことで、最新情報や社内知識を反映できる仕組みだ。

 しかし、RAGは魔法ではない。検索対象となる文書が整理されていなければ、誤った情報や古い情報が参照される可能性は残る。文書の粒度が不揃いであれば、必要な箇所だけを的確に取得することも難しい。データが断片化していれば、文脈全体を正しく理解させることも難しくなる。

 RAGの成否を決めるのは、モデルの選択だけではなく、情報の整備状態、つまりAIが正しい文書を発見できる環境が整っているかどうか、にある。

 この点は、筆者らが実施した金融庁金融研究センターでの実証実験(注5)でも明らかになった。金融庁のガイドライン・監督指針等の文書を対象にRAGシステムを構築し、チャンク化(データや情報を小さなブロックに分割するプロセス)手法の違いや文書の前処理(不整合箇所の整理)がRAGの回答精度に与える影響を検証したところ、文書の整備状態が評価指標に大きく影響することが確認された。

 同時に見えてきたのは、RAGを導入すれば自動的に精度が上がるわけではないという事実である。検索対象となる文書群が未整備のままでは、適切な情報が取得されず、結果として生成精度も安定しにくい。評価指標の改善は、モデルの選択以上に、どの文書をどの形式で蓄積し、どのように検索可能な状態にしているかに依存していた。

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なぜRAG導入は失敗する?
(本文をもとに生成AIで作成)

クレディセゾンが実践する、AIを覚醒させる「情報設計」

 この視点を実務レベルで体現しているのが、クレディセゾンの取り組みである。同社は「CSAX戦略」(注6)の中で、「AIフレンドリーな情報・システム設計」を明確に掲げている。

 従来、人間にとっての読みやすさを中心に整備されてきた文書や規定、ナレッジについて、生成AIを業務に組み込むことを前提とするのであれば、AIにとっても解釈しやすい情報構造が求められる。同社が公表している取り組みは、次のような内容である。

  • 文書をAIでも処理しやすい形式で作成し、構造や用語を統一してわかりやすく整理する(注6)
  • 注釈・記号・図表の配置を含め、全体で一貫性のあるドキュメントを推奨する(注6)
  • 文書、規定、ナレッジなどの社内資産について、人間にとっての読みやすさだけでなく、AIにとっての構造的・意味的な読みやすさ(機械可読性)を考慮して整備する(注7)
  • ナレッジやマニュアルなどの情報の一元管理や関連情報を示すメタデータの付与を進める(注7)
  • システム開発においてもAIが参照・実行しやすいよう、API連携やデータ構造の透明性を重視する(注7)

 こうした設計の積み重ねは、生成AIが社内文書やナレッジを扱いやすくするための重要な基盤となる。逆に言えば、どれだけ精巧な検索システムを構築しても、元の文書が「人間向けの暗黙知前提の設計」のままであれば、AIは情報を適切に解釈できない可能性は残る。

 注目すべきは、これが単なる文書整備にとどまらず、組織の知識を「AIが扱える資産」へと再定義する戦略的な取り組みである点だ。人間が暗黙知で補完してきた「行間」を、AIが読めるように明文化すること──これはAX(AIトランスフォーメーション)の重要な論点の1つと言える。 【次ページ】勝敗を分ける「3つの方向性」とは?
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