• 2026/06/11 掲載

【松尾研究所】RAG導入はなぜ失敗? クレディセゾンに学ぶ「AI前提」の超・情報設計(3/3)

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勝敗を分ける「3つの方向性」

 生成AIの活用が広まるにつれ、「どのモデルを使うか」という問いから「どのようなデータ環境を整えるか」という問いへと、企業の関心は移りつつある。本稿で論じてきたように、RAGを導入しても、基盤となる文書が整備されていなければ、AIの性能を十分に引き出すことは難しい。

 筆者が考える今後の重要な方向性は、大きく3点に整理できる。

 第1に、「AI前提設計」への発想の転換だ。 クレディセゾンの事例が示すように、文書や情報をAIが解釈しやすい形に整えるという発想は、単なる社内の整理整頓にとどまらない。それは、AIを真の意味でビジネスの基盤に組み込むための、戦略的な情報インフラ整備の一環といえる。こうした取り組みを通じて、組織の知識資産そのものを再定義することが、AI前提の設計の重要な論点となる。

 第2に、データガバナンスとAIガバナンスの統合だ。 前回(第4回)(注8)で論じたように、AIガバナンスの構築が重要になるなか、その前提として、どのデータをAIに参照させるか、そのデータの鮮度・正確性・一次情報としての位置付けを明確にする「データガバナンス」も重要となる。AIガバナンスとデータガバナンスは、車の両輪として整備されるべきである。ハルシネーションのリスクを語る前に、AIが参照する情報そのものの質を担保しているかを問い直すことが、ガバナンス整備の出発点となる。

 第3に、継続的な改善サイクルの構築だ。 AIに渡すデータ環境は、一度整備すれば終わりではない。業務の変化、制度改正、新商品の追加に伴い、常に更新・精査が必要となる。これはいわば「データを生き物として管理する」発想であり、担当チームの設置や、定期的なデータ品質評価のプロセスを組み込む必要がある。AIの精度劣化の多くは、モデルの問題だけではなく、参照データの陳腐化に起因することを忘れてはならない。

画像
AI前提の情報設計が必要
(本文をもとに生成AIで作成)

 翻って考えると、金融機関が長年にわたって積み上げてきた膨大な文書・データ資産は、AI時代において強みになり得る。ただし、それは「整備されたデータ」であることが条件だ。これまでは「情報量の多さ」自体が資産であったが、今後は「情報の質と構造」こそが競争力を左右する重要な要素となっていく。

 AIモデルはこれからも進化し続けるだろう。現在は限られた企業しか利用ができないClaude Mythos(クロード・ミュトス)級のモデルを誰でも使える時代もやがてくるだろう。

 しかし、どれほど高性能なモデルが登場しても、それを支えるデータ環境が整っていなければ、宝の持ち腐れに終わってしまう。「データ供給網の設計」という地道な取り組みこそ、生成AI活用の真の勝負どころではないだろうか。

〔参考文献〕
(注1) Fintech Journal「プロンプトエンジニアリングは死んだ? 松尾研が徹底解剖『AIエージェントの本質』」(本連載 第3回)
https://www.sbbit.jp/article/fj/170379
(注2) 日本銀行「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」(2025年9月)
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsrb250930.htm
(注3) 一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)「金融庁 第2回AI官民フォーラム ~AIの類型とデータマネジメントの力点~」(2025年9月)
https://www.fsa.go.jp/singi/ai_forum/siryou/2-2.pdf
(注4) 金融庁「事務局説明資料」(2025年6月)
https://www.fsa.go.jp/singi/ai_forum/siryou/20250618/01.pdf
(注5) 金剛洙・村田健「金融領域における大規模言語モデルの評価の進展とRetrieval-Augmented Generationによる精度向上に向けた取り組み」金融庁金融研究センター ディスカッションペーパー DP2024-3 (2025年1月)
https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2024/DP2024-3.pdf
(注6) クレディセゾン「CSAX(Credit Saison AI Transformation)戦略」
https://corporate.saisoncard.co.jp/business/csdx/strategy_csax/
(注7) クレディセゾン「300 万時間の業務削減へクレディセゾン、全社員の AI ワーカー化を目指し『CSAX 戦略』を始動。ChatGPT Enterprise を 3,700 人に導入、2028 年春の AI コールセンター実現へ」(2025年9月)
https://corporate.saisoncard.co.jp/wr_html/news_data/t0odga00000008xzatt/20250901_Release.pdf
(注8) Fintech Journal「AIガバナンス最前線」(本連載 第4回)
https://www.sbbit.jp/article/fj/178093

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