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  • 2021/04/30 掲載

ワクチン普及で復活の米経済、噂される「インフレ予測」の真偽は?

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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コロナ禍で大幅に落ち込んでいた米経済が、「1984年以来」と言われる力強い回復を見せ始めた。そのけん引車として特に注目されるのが、パンデミックによる都市封鎖(ロックダウン)で使いたくても使えなかったお金が、コロナ後の解放感でモノやサービスへと一気に回る「リベンジ消費」だ。これにより、旺盛な需要に対して供給が追い付かなくなり、インフレーションが急激に進んで経済に悪影響を及ぼすとの見方もある。小売業界やIT業界にとり、短期および中期の計画を立てる上で、気になるポイントだ。米メディアや識者がどう見ているか、まとめてみた。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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復活、そして伸長の兆しが見える米経済のゆくえは
(Photo/Getty Images)


「リベンジ消費は大きい派」の根拠

 まず、コロナ後に消費が急激に伸びるとされる論拠を見る前に、米国西海岸オレゴン州に住む筆者の、外出による定点観察の体験をお話ししたい。ゴーストタウンのように静かであった街は、春先から賑わい始めた。店舗や観光地における人出の急増は、素人目にも明らかだ。近所に開店したスポーツウェア大手ナイキの直営店で若い人たちが中心となって長蛇の列を作り、ダウンタウンのワインバー内部が満席に近い状態となっているのを目撃し、経済の回復は本物だと感じた。

 米国におけるコロナワクチン接種は総数2億回分で、全人口の3分の1以上、最も高リスクの65歳以上のグループでは80%が接種済みとなった。国全体では集団免疫獲得に近付いており、直近における変異種の感染増加にもかかわらず、「パンデミック後」の希望を感じさせる雰囲気に変わってきている。ロックダウンで経済がマヒ状態に陥った1年前と比較して、楽観が社会を覆い始めている。

 ブルームバーグなどの推計によれば、2020年のパンデミックで米国人が貯蓄に回した額は1兆5000億~2兆ドル(約161兆~220兆円)にも上るとされ、これらがすべて消費に回れば、米国内総生産(GDP)は前年比で9%も成長する。もし貯蓄がまったく使われずに残れば、GDPは2.2%しか伸びない。現実には、貯蓄がまったく使われないことも、全額が消費されることも起こらない。そのため、多くのエコノミスト予想では、GDP成長が6~8%となっている。いずれにしても、米経済の回復・成長は消費者次第であることがわかる。

 こうした中、米商務省が4月15日に発表した3月の小売売上高(季節調整済み)は前月比9.8%増加と、2月の2.7%減(改定)からプラスに転じた。特に人々が解放感を味わい、財布のひもを緩めていることが顕著に表れているのが、スポーツ用品・娯楽の23.5%急増である。衣料品は18.3%増、自動車・部品も15.1%増と、全体的に好調だ。金融サービスのPNCフィナンシャルでチーフエコノミストを務めるガス・フォーシャー氏は、「消費支出が今年初頭の力強い回復を主導している」と指摘している。

 米格付け機関フィッチ・レーティングスは3月に発表した報告書で、「ワクチン接種率の力強い増加により、2021年後半の消費者信頼感と実際の消費は顕著に伸びる」と予測。特筆されるのは、「かなり大規模のリベンジ消費需要が、サービス分野において他のグループより多く消費を行い、貯蓄額も大きい高所得世帯で起こる」としていることだ。

 なぜ高所得層がリベンジ消費の中心となると予想されるのかと言えば、中間層や低所得層が政府のコロナ対策給付金をあまり消費に回さなかった過去のパターンがあるからだ。この関係については、後ほど詳述する。いずれにせよ、裕福層のサービス消費が増え、経済回復に貢献するという点で多くのエコノミストが一致していることが大きな理由となって、今年の米GDP成長は6%以上という高い数値が出されているところがポイントだ。

「リベンジ消費は小さい派」の論拠

 しかし、現在のリベンジ消費はやがて減速する、あるいは規模がそれほど大きくならないとの悲観派の声も根強い。中間層や低所得層がコロナ追加対策の給付金の25~40%のみを消費する一方で、残り大半を負債の返済や貯蓄に回し、期待されたほどお金が経済を循環しない傾向が、過去1年間の給付金の使われ方で明らかになっているからだ。

 ペンシルベニア大学ウォートン校の推定では、2月に成立したバイデン政権の経済対策の柱である、1人最大1400ドル(約15万円)の直接現金給付の73%は家計の貯蓄に回され、消費されるのは27%に過ぎないという。ニューヨーク連銀が発表した4月7日付の報告書も、現金給付の24.7%のみが消費され、41.6%が貯蓄、残りは負債返済などに充てられると予想しており、リベンジ消費の勢いが長く続かないシナリオが描かれている。

 ブルームバーグのコラムニストであるリサ・アブラモヴィッチ氏は、「いったんリベンジ消費や延期されていた休暇の消化が落ち着けば、裕福層のクローゼットは新しく買った服でいっぱいになり、ガレージには新車が並ぶことになろう。一方で、低所得層は雇用不安やなかなか進まない昇給に阻まれ、(消費で)負債を増やすことを躊躇するだろう。そのため、米経済は現在の急成長から、いつもの単調なペースに逆戻りする」と予想した。

 興味深いのは、いつもは“イケイケでバラ色”の米経済予測で知られる金融大手ゴールドマン・サックスが、「米国内総生産(GDP)の急成長は、4~6月期に前年比10.5%増と1978年以来の力強さでピークに達した後、減速する」と考えていることだ。具体的には、「7~9月期に若干のスローダウンが見られた後、10~12月期以降は成長率が漸減してゆく」という。

 これは、リベンジ消費が夏以降はすぼんでゆく可能性を念頭に置いたものだ。消費は米GDPのおよそ70%を占めるが、コロナ禍による雇用不安などの心理が「リベンジ」「アニマル・スピリット」(主観的で非合理的な行動)の勢いを削いでしまい、増加する供給が減少してゆく需要に追い付いてしまうのである。これは、米経済が抱える長期的・構造的な弱さが、政府の現金給付の連発や、超大型の財政出動をもってしても「直せない」ことを示唆している。

【次ページ】では、インフレは定着するのか

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