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- 2020/04/15 掲載
見えてきた米国のコロナ出口戦略、いかに規制を解除し再始動していくのか
米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
出口戦略(1)限定的かつ拡大可能な隔離緩和
米国のコロナウイルス感染状況は日々悪化している。疫病の中心地となったニューヨーク州のみだけで感染世界ワースト1位となり、日々の新規入院者数の減少傾向は見られるものの4月9日時点で1日の死者数は約800人と最多を更新し、その後も高止まりしている。集計されない「在宅死」「高齢者施設死」もニューヨーク市のみで毎日数百人程度いると見られる。一方で4月13日時点の全米の感染確認者数はジョンズ・ホプキンズ大学調べで約55万人、死亡は約2万2000人と世界一のレベルに達している。
こうした統計推定の修正に伴い、トランプ大統領に経済政策を助言するカドロー国家経済会議(NEC)委員長は「向こう4~8週間の間に経済活動を再開できるようになるかもしれない」と述べた。大統領自身もツイートで「予想より早く外出禁止令が解除できるだろう。偉大な我が国がいったん再始動すれば、経済はいまだかつてなかったほど繁栄する!」と述べた。
このように強気のコミュニケーションを行う一方で、記者会見におけるトランプ大統領は「再始動には2つの概念があり、ニューヨーク、ニュージャージー、ルイジアナなど爆発的感染が起こっている州では段階的に外出規制を解除する一方、そうでない州においては一挙に規制を解除することになろう」「米国が健康になると判明するまでは経済再開はしない」との現実的な道筋も示している。
一方、米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド局長は「(州よりもきめ細やかな行政単位である)市郡単位で徐々に再開」という方策を提言している。
では、連邦政府や州政府は、どのようなロックダウン解除の基準や道筋を想定しているのだろうか。まず、医療機関、食料品店や警察、農家など市民生活に不可欠な組織の必須業務に従事する者に限って社会活動の継続に支障が出ないように規制緩和を行う。
具体的には米疾病対策センター(CDC)が4月8日、新型コロナウイルスの感染確認者と接触した人でも無症状なら勤務を認める新たな指針を発表した。家族がコロナに感染したり、感染者と1.8メートル以内で接触した者であっても、無症状であれば勤務が認められる。
ただし、職場に入る前に体温を測り、雇用者の監督下で症状の有無を定期的に確認し、感染者との接触後14日間はマスク着用することが条件で、本人に症状が出れば勤務続行はその時点で認められない。雇用者側は職場の消毒の頻度を上げることも求められる。
このようにして従来の2週間にわたる自宅待機を緩和し、必須業務要員の確保を狙う。人手不足の解消という形をとりつつも、感染爆発が和らげばこの緩和された基準が一般の従業員や学生・生徒などにも徐々に適用される可能性があり、企業BCP戦略のひとつの方向性を示すものとして注目される。
さらにカーネギーメロン大学で公共政策を教えるジョナサン・コールキンズ教授は、現時点での隔離緩和の候補産業として、職場における密接度が比較的低い製造業と建設業を挙げる。なぜなら工場は敷地が広大であることが多く、一般人が立ち入ることも少なく、従業員間の距離が取りやすいからだ。
また、建設現場なども一般人の立ち入りは禁止され、重機などを用いる従業員間の距離が広いことが多いため、再開順位が高いという。加えて、従業員の勤務時間をずらすことで職場における勤務人数を減らすなどの工夫も推奨される。製造業と建設業は合わせて2000万人を雇用し、米国内総生産(GDP)の23%をたたき出す主要産業であり、これらの早期再始動が景気後退を和らげる効果が期待される。
さらに、食品を扱うことから現在「必須の店舗」とされる小売りチェーン大手ターゲットやウォルマートでは家具や家電も販売している。そのため、店内の消毒、買い物客の通路一方通行や距離確保などの条件さえ整えば、大型の家具店や家電量販店でも感染ピークが終息したと思われる地域から順次営業再開が認められるかもしれない。
ただし、これら隔離規制の緩和のみでは感染拡大やパンデミックの第2波襲来を確実に防ぐことはできず、本格的な対策実施までの「つなぎ」にしかならないことが欠点だ。
出口戦略(2)全国民の感染および抗体検査
自信を持ってロックダウンを解除し、さらに経済の再始動を実施するためには、労働者や消費者や学生・生徒など広範な社会の構成員が互いに感染源になることなく、安心して勤務や勉学ができるような環境を整えることが必須となる。その切り札として米国において構想されるのが、「全国民の感染および抗体検査」である。感染の中心地となったニューヨーク州と近隣通勤圏のニュージャージー、コネチカットの3州の知事は連帯して、住民の感染テストおよび抗体検査を組織的に行う計画を発表した。検査で陰性と確認された者、血液採取による抗体検査で感染後の回復が確認された者から順次、職場や教育機関に復帰させてゆく計画だ。
その後、このプロジェクトには感染で大打撃を受けたいわゆる「米北東部コロナ街道」を形成するロードアイランド州とペンシルベニア州も参加することになった。一方、西海岸においてもカリフォルニア、オレゴン、ワシントンの3州が合同で経済再開を目指すことで合意している。
復帰を許された者は再び感染源にならないというお上の保証を得るわけで、住民に安心を与える一方、企業やその他の組織が再びロックダウンを恐れずに再始動や雇用を行っていけるとの触れ込みだ。BCP戦略にとっても決定版の解決策となる可能性を秘める。
ジョンズ・ホプキンズ大学病院で感染症を専門とするロバート・ボリンジャー博士は、「米経済が再始動するためには、新型コロナウイルスの検査体制を強化することが必須だ」と経済専門局のCNBCで語っている。ハーバード大学公衆衛生学部のハーベイ・ファインバーグ博士も、「抗体検査は米経済再始動を迅速かつ安全に行うゲームチェンジャーとなる可能性がある」と述べた。このような見解は医学界の外においても広く共有されている。
米金融大手のJPモルガンは、「量と正確性さえ確保できれば、抗体検査は新型コロナウイルスに対して免疫を持つ人を特定できる」と指摘。セントルイス連邦準備銀行のジェームズ・ブラード総裁は「国民皆検査が(経済再始動の)処方箋だ。検査で陰性と認定された者はコロナウイルスフリー・バッジの着用が許され、自信を持って他人と接触できるような体制にすれば良い」との意見を表明している。
また、ファウチNIAID所長も、「連邦政府はコロナ免疫証明書の発行ができないか検討中だ」と語っている。
感染爆発をすでに起こしてしまった米国においては、検査数にこだわらないクラスター監視型の日本式アプローチは国民の信頼感回復には役に立たず、韓国式の「ともかく検査数を増やすこと」が、相互信頼を回復する有効な策として見られているわけだ。
【次ページ】出口戦略には落とし穴も
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