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  • 2022/04/19

原油高騰で「オイルショック」の悪夢蘇る…同じインフレ対処で「差」が出る日本と米国

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、急ピッチで進むインフレに関して「オイルショックの再来にはならない」と、自らの政策に自信を見せている。米国は世界最大の石油産出国となっており、利上げについても先手を打っていることがその理由だが、果たして米国はインフレを克服し、適切な成長を維持できるのだろうか。また日本にはどのような影響が及ぶのだろうか。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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米国はインフレを克服し、適切な成長を維持できるのだろうか
(Photo/Getty Images)

単純なコストプッシュ・インフレではない

 米国はコロナ危機を乗り越え、順調に経済を回復させてきた。だが、エネルギー価格や人件費の高騰によって、インフレが過度に進むリスクが高まっており、ロシアのウクライナ侵攻が物価上昇にさらに拍車をかけつつある。市場からは、70年代に発生したオイルショックが再来するのではないかとの声も聞かれるようになってきた。

 たしかに、今回、発生している物価上昇はオイルショック当時とよく似ている。

 1973年、OPEC加盟6カ国は1バレルあたり3.01ドルだった原油公示価格を5.11ドルに引き上げ、翌年1月には11.65ドルに引き上げた。これをきっかけに一時産品のほぼすべてが値上がりし、全世界的にインフレが進んだ。日本でも72年から80年にかけて消費者物価指数は約2倍に高騰し、「狂乱物価」という言葉が流行した。

 オイルショックによるインフレは原油価格の引き上げがきっかけであったのはたしかだが、実はオイルショックの2年前には、米ドルと金の兌換停止(いわゆるニクソン・ショック)が起こっており、市場には大量のドル紙幣がバラ撒かれていた。しかも金とドルの兌換停止によって日本とドイツは急激な通貨高に見舞われており、金融システム安定化を目的に両国の中央銀行は大量の流動性供給を行っている。

 つまり、オイルショックの前には、今の量的緩和策と瓜二つの金融政策が行われており、貨幣が過剰な状態だった。ここに原油価格の高騰が加わったことで、一気にインフレが進んだという図式である。

 国内では今回のインフレについて、原油価格の高騰を原因とするコストプッシュ・インフレであり、量的緩和策とは無関係であるとの主張があるが、それは経済の現実を無視した、教科書的な解釈に過ぎない。特定産品の価格高騰だけで、すべての物価が上昇するというのは経済学の理屈上、考えにくく、インフレが過度に進む時には、必ずといって良いほど貨幣的要因が存在している。複雑な現実社会に対して、機械的な区分を無邪気に適用するのは危険である。

 量的緩和策による大量のマネー供給に、原油価格の高騰、コロナ危機をきっかけとしたサプライチェーンの混乱など、物価を上げる要因が目白押しであり、これらが絡み合って、今のインフレが形成されている。そうであればこそ、市場からは70年代の再来を危惧する声が上がっていると見て良いだろう。

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現在のインフラは、原油価格の高騰を原因とするコストプッシュ・インフレであり、量的緩和策とは無関係であるとの主張がある。しかし、それは経済の現実を無視した、教科書的な解釈に過ぎない
(Photo/Getty Images)

米国の経済構造が大きく変わった

 オイルショック再来の懸念に対して、パウエル氏は明確に否定して見せたわけだが、根拠となる理由は2つである。1つは、米国の原油産出量の違いである。

 オイルショック当時も今も、米国は世界最大の原油産出国である。だが73年当時の米国は自国で消費する石油の半分しか自国で産出することができず、残りは中東などからの輸入に頼っていた。だが近年は、シェールガスの開発が進み産出量が増えたことに加え、再生可能エネルギーへのシフトによって米国における石油の消費量は大幅に減少している。

 このため今の米国は、自国で消費する以上のエネルギーを産出することが可能となっており、もはやエネルギーの輸入に頼る必要がなくなった。米国は各国に対する影響力の維持という目的から、依然としてエネルギーの輸入も行っているが、総合的に見た場合、米国はもはや原油市場の動向に影響を受けない国と考えて良い。パウエル議長は、以前ほど米国経済は原油市場の影響を受けないとして、インフレにもうまく対応できるとの見解を示している。

 もう1つの理由は、利上げの前倒しである。

 インフレを放置すると手が付けられなくなり、後で大変な荒療治に追い込まれることになるが、インフレ発生当初は、その影響を軽視してしまうケースも少なくない。70年代の米国はその典型と言って良いだろう。

 当時、FRB議長だったアーサー・バーンズ氏は、インフレを甘く見ており、米国はインフレにはならないと主張していた。だが、予想に反してインフレが深刻化してくるとバーンズ氏は自らの主張を正当化するため、消費者物価指数を修正し、インフレは軽微であると主張するようになってしまった。やがて、誰の目にもインフレが明らかとなり、バーンズ氏は78年に退任。短期で終わったミラー議長の後任であるボルカー議長が、政策金利を20%まで引き上げるという荒療治で、何とかインフレを押さえ込んだ。

 近年、消費者物価指数の1つとしてよく使われるものに、変動が激しい食品やエネルギーなどを除いたコアCPIと呼ばれるものがある。実はコアCPIの原型というのは、物価上昇をなかったことにしたいというバーンズ氏の意向によって作られたものである。

【次ページ】日銀は事実上の円安容認?

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