- 2026/06/11 掲載
フィジカルAIどころじゃない…ペーパーレス未完9割が示す残酷な「製造現場の光と陰」
むしろ紙が増えた…失敗“続出”のペーパーレス化
生産性向上やデータ活用の掛け声の下、多くの企業が業務のデジタル化を急いでいる。だが製造業の現場において、紙を完全になくすことは極めてハードルが高い。LINE WORKSの調査(全国の製造業〈従業員数1000名未満〉で働く社員225名を対象に実施)がその過酷な現実を映し出している。従業員1000名未満の中堅中小製造業では、80.9%の企業がペーパーレス化に取り組んでいる(図1)。しかし、ほぼ全ての業務で問題なく完了したと答えた企業は全体のわずか8.9%にとどまった。大半がデジタル化を試みているにもかかわらず、やり遂げた企業は1割に満たない。
さらに4割弱の企業で、過去1年間の紙の使用量が減らなかったとしている。推進する過程でかえって紙の使用量が増えたという声(計7.8%)すらある(図1)。
また調査対象の企業は平均6種類の紙書類を扱っており、素材や化学産業では平均7.4種に上る。特に全業種において、「請求書」や「納品書・領収書」、「見積書」をはじめとした取引に関わる書類が最多となっていることから、対外的なやり取りに関わる書類ほど、紙での運用が根強く残っているようだ。
では現場が紙を捨てられない理由はどこにあるのだろうか。
さらに製造業では、品質保証やトレーサビリティ、安全管理の観点から紙が使われ続けている。製品不具合が発生した際の記録管理に加え、見積書や納品書、請求書など取引先とのやり取りでも紙運用が根強い。現場での利便性や品質管理上の要請に加え、サプライチェーン全体に残る商慣習も重なり、最新鋭の工場であっても紙を完全に消し去ることは容易ではない。
紙が残ってしまう「4つの理由」
■理由1
現場では紙の良さとして、53.8%が書き込みやメモのしやすさを、49.3%が一覧性の良さを高く評価している(図3)。図面や品質検査記録、点検チェックリストなどを扱う際、直感的に書き込めてひと目で全体を見渡せる紙の利便性は、いまだにデジタル端末を上回る場面が多い。
■理由2
システム障害時でも業務を止めずに済む点や、粉じんや油が付着するといった過酷な工場環境で雑に扱える点も現場ならではの強みだ。必要な紙業務は残しつつデジタル化を進める現実的な姿勢をとる企業が半数を超え、全面的なペーパーレスを目指す企業は16%にすぎない。無理に紙を排除せず、アナログの良さを冷静に見極めようとする製造現場の苦悩がうかがえる。
■理由3
さらに製造業には、品質保証やトレーサビリティといった特有の事情もある。製品不具合が発生した際には、誰が、いつ、どの工程で確認したのかを遡る必要がある。
現在では電子記録による管理も広く認められているが、現場では紙の記録を補助的に残す運用も少なくない。品質監査や顧客監査への対応、安全管理上の確認作業など、記録の確実性が求められる場面では紙が使われ続けている。
■理由4
ペーパーレス化が進まない理由は、製造現場だけにあるわけではない。先述の通り、社外とのやり取りに関わる業務で紙が残るケースが多かった。電子契約やEDI(電子データ交換)の普及が進んでいるとはいえ、取引先との関係では依然として紙を前提とした運用が残っていることがうかがえる。
特に製造業では、多数の取引先や協力会社との間で日々膨大な帳票がやり取りされる。自社だけがデジタル化を進めても、取引先が紙運用を続けていれば完全なペーパーレス化は難しい。現場の問題だけでなく、サプライチェーン全体の商慣習が紙を残す要因になっているのだ。
紙が残るのは、社外との商慣習、現場での使い勝手、そして品質保証や安全管理という製造業特有の要請が複雑に絡み合った結果だ。だからこそ、最新鋭の設備を備えた工場であっても、紙を完全に消し去ることは容易ではないのである。
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