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- 2026/06/28 掲載
「光の覇権」奪還をかけて王者ASMLに挑むニコンとキヤノンの戦い
最先端ロジック半導体の露光装置シェア奪還に向けた戦略
なぜ日本の光学メーカーは「光の覇権争い」に敗れたのか
世界の半導体露光装置市場は、オランダのASML、日本のキヤノン、ニコンの3社による強固な寡占状態にある。2024年の世界半導体露光装置市場における3社の合計出荷台数は683台であり、市場シェアはASMLが61.2%、キヤノンが34.1%、ニコンが4.7%を占める。AIなどの最先端ロジック半導体の製造に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置市場においては、ASMLが100%のシェアを握り事実上の完全独占体制を築いている。またレンズとウェハの間を純水で満たす「ArF液浸露光機」においてもASMLが9割以上のシェアを持つ。ASMLの25年通期売上高は前年比16%増の326億ユーロ(約6兆円)、最終利益は27%増の96億ユーロ(約1兆7700億円)にのぼり、26年度に入って中国への輸出規制の影響が懸念されたが、台湾・韓国など世界的なAI半導体投資の需要増が吸収し、その勢いに衰えはない。
EUV装置は1台あたりの価格が1億5000万ドルを超える極めて高額な設備であり、ASMLによる市場の独占は半導体メーカーから価格交渉の余地を奪い、兆単位の工場投資といった巨額のコスト負担を強いている。しかしながらその技術的な優位性と露光装置固有の「署名(シグネチャー)」によってベンダーロックインをかけることにより、その独占的地位をますます盤石なものとしている。
1980年代には世界シェアの約7割を支配し、市場を牽引していたニコンは、技術力そのものでASMLに劣っていたわけではない。同社はi線からArF液浸に至るまで、解像度を高める光学技術の最先端を走り続けていた。
2007年にはEUVのフルフィールド機を顧客に納入して実証を済ませ、口径450ミリメートルウェハへの対応でも世界初の実証を行っていた。しかし、当時の最大顧客であった米インテルが次世代の量産技術としてASML製の装置を選択したことで、ニコンは量産化を断念し、2011年にEUV市場からの撤退を余儀なくされた。
覇権の行方を決定づけたのは、技術力ではなく事業アーキテクチャと顧客との関係構築の手法の違いであった。ニコンは最高水準のレンズを自社内で製造する能力を持っていたため、製品開発のすべてを自社で完結させる垂直統合型の自前主義にこだわった。一方、ASMLは自社で光学設計を完結させず、レンズの製造をドイツのカール・ツァイスに委ねるなど、世界中の外部サプライヤーから最高峰の部品を集めるモジュール型の手法を採用した。
この事業構造の違いが、ASMLに開発スピードの向上とリスクの分散をもたらす結果となった。さらに、ASMLはEUV開発の黎明期からインテル、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子といった主要な顧客に巨額の資金を出資させ、開発におけるリスクを共有しながら装置を共同で作り上げるエコシステムを構築していった。
ニコンは完成した装置を販売するという従来のスタイルを維持し、売上の最大8割を依存していたインテル一社の要求に合わせて開発を最適化する態勢をとっていた。結果として重要な技術の分岐点で顧客に背を向けられ、事業の足場を失うことになった。
露光装置の導入において決定的な障壁となるのが「署名(シグネチャー)」と呼ばれる装置固有の微細な歪みである。半導体メーカーの工場は、すでに導入しているASML製の装置が持つ署名に合わせて製造工程全体を最適化している。異なるメーカーの装置を製造ラインに混在させると、重ね合わせ精度が悪化して不良品が発生しやすくなる。
このため、一度ASMLの装置を導入した工場は他社の装置に乗り換えることが難しくなる。ニコンが安価で高性能な装置を開発しても、既存の製造ラインには入り込めないという物理的な壁が存在している。
ニコンとキヤノンの再起をかけた戦略
ASMLによる市場独占に対し、ニコンとキヤノンはそれぞれ異なるアプローチで最先端領域のシェア獲得を図っている。ニコンはEUV市場への再参入による正面突破を避け、現在も量産工程の主力として機能するArF液浸市場に注力する。最大の障壁となる署名の壁を越えるため、ASMLの装置と同じように動作し、ASML用のフォトマスクや設定条件をそのまま流用できるASML互換プラットフォームの開発を進めている。
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