- 2026/10/14 06:50 掲載
【潜入】生産効率2倍を実現「長野の工場」、物流ロボが自らエレベーターを使った衝撃(3/3)
連載:勝てる工場のつくり方~シスメックスRA~
生産効率「なんと2倍」、自動化・内製化の飛躍的な成果
物流の自動化と内製化によって、入荷から出荷までを一体的に設計した結果、生産効率の向上と省力化を実現している。「ピッキングは、1時間あたりの作業工数が大幅に改善されています。本来、内製化によって必要な人員に対し、その半数で作業を担えていることから、生産効率は2倍に向上しました」(小澤氏)
ピッキングの準備作業も、以前は1人あたり20分程度かかっていたが、現在は5分もかからない。必要な部品の情報がAMRに表示されるため、作業者が部品を探し回る必要がなく、取り忘れなどのミスも減った。部品や完成品を運ぶ負担も大幅に軽減されている。
こうした省力化によって、物流を内製化した後も移転前と同じ人員で業務を回せている。パートタイマーの残業もほとんどないという。
「新工場の稼働から1年以上が経ちますが、当初の計画通りに進んでいると考えています」(尾黒氏)
もっとも、こうした成果に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。AMRの導入にあたっては、部品のサイズや容積などのデータ登録に半年から1年ほどを要したほか、台車の形状や床面の凹凸によって搬送がうまくいかない問題も発生した。そこで同社は、AMRに適した台車を自ら設計し、機種ごとに異なっていた台車を共通化。品質管理部門も巻き込みながら、搬送による振動や衝撃が製品の品質に影響しないことを確認するなど、試行錯誤を重ねてきた。
そして現在、さらなる進化に向けた取り組みも始まっている。課題の1つが、ERPなどのITシステムと工場設備を動かすOTの連携だ。現場の稼働状況を可視化し、経営と現場が共通のデータを基に改善できる環境を目指す。また、大型製品の搬送や製造工程そのものの自動化も検討している。
その先に見据えるのが「工場の夜間稼働」だ。人がいない夜間にAMRを動かし、翌日の作業準備を進める構想である。人員を増やさず生産性を高めてきた同社の挑戦は、さらに次の段階へ進もうとしている。
データ登録など、現場が経験した「自動化の苦労」
部品のピッキングを自動化する際には、各部品のサイズや容積、梱包箱の大きさなどのデータをAMRに登録する必要があった。既存のERPから活用できるデータもあったが、不足する情報は新たに作成し、登録しなければならない。
製品の機種ごとに段階的にデータを整備し、全体では半年から1年ほどを要したという。運用開始後も、箱のサイズが合わないなど、調整が必要になるケースもあった。
また、台車による搬送にも工夫が必要だった。製品の種類や工場の床面、台車の形状などに合わせた設計が求められたためだ。担当者は「正直、ここまで手間がかかるとは思っていませんでした」と振り返る。
中でも台車は、これまで機種ごとに専用のものを使っていたが、AMR導入に合わせて作り直した。旧工場で試験した際には、床面の凹凸によってAMRと台車をうまく連結できないケースがあった。さらに、AMRのセンサーが台車の柱を障害物として誤検知する問題も見つかった。
そこで同社は、こうした問題に対応できる台車を自ら設計し、機種ごとに分かれていた台車を共通化した。ベース部分を3種類程度に絞り、オプションを組み合わせることで、さまざまな製品に対応できるようにした。
こうした調整は、製造部門だけで完結するものではなかった。生産技術部門には現場のイメージを具体的な設備設計に落とし込んでもらったほか、品質管理部門には、振動や衝撃が品質に影響しないか確認してもらった。
「医療機器ですから、物流を自動化しても品質に影響があってはいけません。最終的に導入した設備についても、搬送の前後で品質に変化がないかを品質管理部門が確認し、エビデンスを残しています。PoCの段階から品質管理部門にも入ってもらい、まさに全員参加で進めました。現場の思いをどうすれば具現化できるか、他部門を巻き込みながら進めていきました」(小澤氏)
残る課題は「IT・OT」の連携
その1つが、ERPなどのITシステムと、工場の設備を動かすOT(制御・運用技術)との連携だ。現状では、これらのシステムが完全につながっているわけではなく、その日の作業内容や量などを、現場の外から適切なタイミングで把握できる状態にはなっていないという。
「ERPとOTをつなぎ、経営と現場が共通のデータを基に判断し、改善できる環境を構築する。現場の実態を見える化し、継続的な改善とより良い意思決定につなげていきます」(尾黒氏)
物流にも、まだ人が担っている部分が残る。たとえば大型の製品などは、現状では自動搬送が難しく、人がフォークリフトなどで運んでいる。今後は自動運転フォークリフトなども選択肢に入れ、さらに自動化できる範囲を広げていく考えだ。
また、物流だけでなく、製造工程そのものの自動化にも挑戦していく。多品種少量生産が障壁となるものの、製品が異なっても共通する作業や要素技術に着目することで、複数の製品に対応する自動化の可能性を探っている。
次に目指すは「工場の夜間稼働」
「今後も省力化を進めていきたいと考えています。そのために、自動化設備を導入するだけでなく、作業自体を効率化していく。作業者の負担を減らしつつ、今の人的リソースの能力を最大化するような自動化を推進していきたいです」(小澤氏)
その先に見据えるのが、工場の夜間稼働だ。ただし、日中と同じ作業を行うのではなく、夜間のうちに翌日の作業の準備を終わらせておくものである。
「夜間稼働に向けた準備を進めています。人がいなくてもデジタルで動いている環境だからこそできることだと思っています」(尾黒氏)
まずは生産フロア内の搬送を担うAMRを夜間に実際に動かし、トラブルの有無などを検証するPoCに取り組む予定だという。
夜間稼働が実現すれば、さらなる省力化や生産性の向上につながるだろう。
後編では、同社が進める生成AIの活用や、データ活用に向けた取り組みに迫る。
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