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- 2023/10/30 掲載
アイシン九州が目指す「EV変革への完全対応」、950時間も効率化した“製造DXの実力”
DXの狙いは「100年に1度の変革期」への対応
同社は2021年4月に「DX推進室」を設立。以来、グループ企業でエンジンアルミ製品の生産などを手がけるアイシン九州キャスティングも巻き込み、DXを本格化させている。
狙いは無論、自動車業界が100年に1度の変革期にある中での変化対応の加速だ。親会社のアイシンもEVの心臓部となる駆動部品の生産に着手するなど、自動車業界は変化が求められている。目指すのは2030年までに業務効率で25%、生産性で30%を向上させる「人を中心とした業務プロセス刷新」だ。
アイシン九州のDX推進室で室長を務める熊谷 隆之氏は、「業務棚卸の結果、工数の3割以上が資料作成や問い合わせ対応など、本来の業務以外に割かれていることが明らかになっています。その解消と新たな価値創出、ひいては新たなチャレンジにつながるDXを推進しています」と語る。
「身の丈に合った」デジタル化とDX
アイシン九州のDXプロジェクトは、データドリブン経営のためのIT基盤の整備から、柔軟な働き方を実現するためのデジタルワークプレイスおよびデータの共有、さらにはセキュリティまで、まさに全社を対象にした改革だ。その中で興味深いのが、工場のスマート化など、現場に近い業務のDXで「身の丈に合ったデジタル化」を活動方針とする点である。実は、ここに至るまでには紆余曲折もあったのだという。まず直面した課題として熊谷氏が挙げるのがコストだ。同社では以前から生産性向上と収益の確保を目指すTPM(Total Productive Maintenance)に取り組んできた。稼働歴が20年以上の設備も多く、デジタル対応度は当然低い。IoT機器の導入は大がかりとなり、コストもそれだけかさむ。
また、人にまつわる問題もあったという。世の中には便利なデジタルツールがすでに数多く存在するが、そうしたツールの使い方を習得するのに時間を要した。熊谷氏は「せっかく導入したツールも、現場では一向に使われません。理由を尋ねると、『不要な機能が多く使いにくい』とのこと。これではDXの加速は困難です」と振り返る。
一連の経験で得られた気付き「『デジタルで可能なこと』と『ユーザーがやってほしいこと』は必ずしも合致しない」を教訓に、デジタルに振り回されることなく、ユーザーに寄り添い、困りごとに合わせて機能を絞り、かつ安価にデジタル化を推進する。こうした思いが「身の丈に合った」の言葉に込められているという。
こうした取り組みの代表格が、生産設備のIoTデータを用いてラインの稼働状況を可視化する、内製の可動率計と10サイクルモニターを用いた生産性向上である。 【次ページ】図でわかる製造DX:年950時間の効率化を実現
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