- 2026/08/25 06:50 掲載
従業員38人で売上73億円の衝撃…世界初「製造AI」で常識を覆す「金沢の町工場」の正体
連載:勝てる工場のつくり方~アルム編~
法政大学工学部卒。大手計測機器メーカーにエンジニアとして入社するも、リアルなものづくりがしたいと木工職人に転職。一転、30 歳を前に「言葉」「伝える」力に魅力を感じ、ライターを志す。当初はインテリア、製造業関連の案件が多かったが、次第に経営者、ビジネスサイドへのインタビュー案件が増加。ここ数年は IT テクノロジー、人事・求人・採用、中小企業経営者といった分野の案件多数。クラシックバレエに夢中な相方、アパレル企業で働く娘、父親と同じ大学の理工学部で学ぶ息子、13歳の犬・ミニチュアピンシャーの4人+1匹家族(2026年現在)。
リーマンショックで味わった「製造業の危機」
アルムが創業時に手がけていた事業は、大手メーカーが量産を行っている工場のラインに対し、改修や自動化の提案ならびに、受託されたラインを設計。部品を仕入れ、組み立てならびに設置まで担う、エンジニアリング業務であった。当時の従業員数は約20名。受託、下請け業務ではあったが、売上高は5億~7億円程度。このまま順調に成長していくかに思えた。ところが創業から2年ほど経った折、リーマンショックが起きる。三島氏は当時の状況を次のように振り返る。
「ラインを作ろうと思っても、部品を提供してくれていた会社が町工場だったこともあり、リーマンショックの煽りを受け、多くが倒産してしまいました。そのため部品が手に入らず、ラインを作ることができない状態に陥りました」(三島氏)
部品が手に入らないのはもちろん、アルムが危惧していたのは、これまで長きにわたり町工場で受け継がれてきた匠の技が、世の中からなくなってしまうことだ。
そこで、これまでは大企業に対して提供してきた自動化技術を、中小町工場に提供することで、日本の製造業の根底、コアコンピタンスとも言える中小町工場の技術も含めた継承に寄与していこうと、代表取締役社長の平山 京幸氏は事業のピボットを決意する。
7年かけて「世界初の製造AI」開発
そしてまさしく先述したような、経営危機に陥っていた、経営者が高齢で事業継承も考えていた部品提供業者を買収。その会社がこれまで培ってきた金属加工のノウハウに、アルムが培ってきた自動化ならびにAIの技術を加えることで、設計から生産、加工、組み立てといったものづくりの一連業務を完全自動化するような工作機械ならびにソリューションの開発を目指していく。なお買収したのは従業員10名ほどの秋田のオーエスイー(現MMOP)という会社だ。金属加工の技術は間違いなかった。
しかし、一筋縄ではいかない。熟練の技術者が昔ながらの職人気質だったこともあり、アルムの提案に当初は懐疑的だった者もいた。
「まずは、コミュニケーションを取ることから始めました。その後はヒアリングを重ね、それぞれの図面に対してどのような工具を選び、どんな加工を、どのような順番で行っていくのか。回転数や送り速度といった数値も含め、現場の職人さんが経験と勘で行ってきた技術をとにかく集め、データ化していきました」(坂下氏)
ぱっと見は同じ図面に思えても、用途や精度などにより工具の選択や削り方は当然変わる。そもそも技術者により、加工方法や流れも異なる。そのためデータの蓄積ならびに整理に要した期間は約7年だ。
そうして得た300万を超える加工条件のデータを元に、アルム独自の加工フォーマットならびにアルゴリズムを設計。約57.6兆通りの加工を自動・無人化で担える製造AIソフトウェア「ARUMCODE」の開発に至る。アルムによれば、NCPの自動生成の分野で製品化できている会社はほかになく、「世界初」という。
「我々の技術を再現できるわけがない」の声多く…
7年かけて開発したソリューションだったが、マーケットにおいても、最初は懐疑的に見られていたと、2人は振り返る。まさに、先述の熟練技術者が抱いていた「ソフトウェア、AIに我々が培ってきた技術が再現できるわけがない」。このように考える技術者ならびに町工場が圧倒的だったからだ。工作機械の種類や年式、状態や使用環境などにより、想定していたパフォーマンスが出ない、という課題も浮かび上がった。そこで、ARUMCODEを実装したマシンの開発を進める。だが、同マシンの開発でも4年の歳月を費やすこととなる。
そうしてリリースされたのが、アルムが事業をピボットしたときに思い描いていた、金属部品の設計から加工まで一連の業務を完全自動化で行う工作機械「TTMC-TypeF5 S model(以下、TTMC)」だ。
ソフトウェア単体で発売していたARUMCODEとは異なり、設置すればすぐに使える利便性ならびに、マシンも工具も高いパフォーマンスが出るよう最適化されている。アルムの思想を支持していた顧客などによる乗り換え需要、さらには、実際に使ったユーザーからの口コミや紹介などで、これまで40台以上が売れている。
生産性6倍に…「24時間365日」働く工作機械
ARUMCODEはその後、SaaS版の「ARUM Factory365」もリリース、こちらのソフトウェアであれば月額1万9,800円から利用できる。対してTTMCはベースが数千万円するスギノマシン製の工作機械ということもあって、価格は1台約3億3,000万円。TTMC Brain(ARUMCODEを含むTTMCを統合制御するAI頭脳)が搭載されていない近しい性能のマシンと比べると、5~6倍もする。なぜ、このような価格に設定したのか。その根拠は「稼働率の差」にある。
「従来の工作機械を使うとき、1日の労働時間8時間のうち、NCプログラムの作成やツールの組み立て、段取りなどを含めると実際に機械を動かしているのは4時間程度です。年間の休日なども含めると稼働率は1割強です。TTMCは24時間365日動かせる。8割稼働としても稼働率は6倍上がる。つまり普通の機械が1日に1個作るところを、TTMCは6個作れる。6倍の値段でも十分ペイできるという計算です」(三島氏)
完全自動化ならびに無人化による作業時間の短縮、24時間365日稼働をすることにより大幅な売上高アップを実現させ、約3.3年で購入費用はペイできる、とのROIを営業の際には関連資料と共に提示しているようだ。 【次ページ】大手も続々導入、狙いは「自社内町工場」化?
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