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  • 2023/06/07 掲載

組込型保険とは何か? 国内外の事例、メリット、今後の可能性をわかりやすく解説

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新しい保険の販売手法として、商品やサービスとセットで保険を提供する「Embedded Insurance(エンベデッドインシュアランス:組込型保険)」が注目されている。これまでになかった新しい保険商品が数多く登場するだけでなく、ANAやGMO、サカイサイクルといった事業会社が大手保険会社と手を組んで保険商品を開発・提供するケースも出てきた。組込型保険とはそもそも何か、事業者や利用者のメリット、さらにはそれ以外の「第3の存在」、国内外の最新事例などについて、アビームコンサルティングの執行役員プリンシパルである植田良平氏、シニアマネージャーの森厚之氏、上條洋氏、森田直樹氏に話を聞いた。
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組込型保険の意義
(後ほど詳しく解説します)

組込型保険とは何か? なぜ改めて注目されているのか

 組込型保険とは、さまざまな企業が提供する商品やサービスの中に「保険」を組み込んで提供する新しい保険の販売手法のこと。アビームコンサルティングの執行役員プリンシパルで、保険業界担当チームをリードする植田良平氏は、組込型保険について次のように説明する。

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アビームコンサルティング
執行役員プリンシパル
金融ビジネスユニット
植田良平氏
「まずEmbedded Finance(エンベデッドファイナンス:組込型金融)が注目されるようになりましたが、組込型保険は、組込型金融の一類型と言えます。組込型金融にはペイメントや貸し付けなどがあり、その2つに続く規模感で成長し続けているのが、組込型保険なのです」(植田氏)

 組込型保険が用語として広まったのは2020年代に入ってからだが、販売手法としては決して新しいものではない。

「組込型保険という言葉がなかっただけで、商品・サービスを購入するときに、保険に入る仕組みは存在していました。たとえば、自動車のディーラーから自動車を購入するときに、自動車保険にも同時に入るケースは少なくありません。損害保険のように、商品やサービスと密接に結びついた保険の提供は古くより行われてきたのです」(植田氏)

 組込型保険が注目されるようになってきたのは、商取引の流れが大きく変化してきたからだ。オンライン上でのプラットフォームが普及し、ユーザーが商品やサービスの購入手続きをネット上で行うケースが増えた。その一連の流れの中に、保険サービスが組み込まれるようになってきたのだ。

組込型保険の具体例、急速に広まっている要因とは?

 組込型保険のわかりやすい具体例として、植田氏は航空チケットと旅行保険の例を出して説明している。

「かつては、飛行機のチケットを旅行代理店で購入するのが一般的でした。しかし、現在では航空会社のサイトで直接オンライン購入するケースも多いでしょう。そのチケット購入の一連の流れで、事故などに備えた保険商品購入手続きが登場します。チケットと保険という別々の購入プロセスが、システムによって統合したのです。ユーザー側から見ると、2つの手続きではなくて、1つの手続きに統合されたと言えます」(植田氏)

 組込型保険が注目されている背景には主に4つの要因があると植田氏は語る。

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図表1:組込型保険が今注目される背景
(出典:アビームコンサルティング)

 要因の1つ目は、「Banking as a Serviceの台頭」である。銀行機能を提供する事業者の台頭により、組込型金融が一般化し、その流れが保険にも生まれてきたのだ。さらに「プラットフォーム取引やエコシステムの拡大」「データ量の増大」「インシュアテック企業の台頭」などの要因によって、組込型保険が広まってきた。

「技術的な面では、保険会社のデータ・機能を外部に開放するAPIと呼ばれる仕組みの発達により、保険会社のサービスと外部サービスとの接続が簡便化され、これが普及を後押ししています」(植田氏)

消費者、保険会社、事業者の組込型保険のメリット

 組込型保険が順調に普及してきているのは、技術的環境的な要因とともに、消費者・保険会社・事業会社のいずれにとってもメリットが大きいからだ。

 消費者が組込型保険を使う主なメリットは3つ、「加入手続きが簡単」「加入漏れが防げるので安心」「価格が安い」だ。

「消費者にとって、保険に加入するハードルが高い1つの要因は、手続きが面倒だからです。組込型保険として商品と保険の手続きの統合により、たとえば、名前や住所を何度も記入する必要がなくなります。また、消費者は一般的にはさほど意識的に保険に入ろうとはしません。しかし、商品やサービス購入時にニーズ喚起する組込型保険なら加入漏れを防げるため、『あのときに入っておけば良かったのに』という後悔もなくなるでしょう」(植田氏)

 「価格が安い」のは、オンラインサービスを使用することによって、対面などの販売行為にかかる手間や人件費などのコストが削減されるからである。

 「販売コストが安くなる」ことは、保険会社にとっても大きなメリットである。低価格の保険サービスを提供することで、より広く顧客の獲得が期待できるためだ。

「保険会社は、オンラインサービスを通じて加入してもらうため、営業の人手がかかりません。営業行為の効率化が実現できるのは大きなメリットでしょう」(植田氏)

 事業会社にとってのメリットとして考えられるのは、「本業以外の収益源の確保」「顧客体験の向上」「競合他社との差別化」の3つである。

「まずは、保険販売することで手数料収入を得られることです。また、消費者が商品を購入すると同時に保険に加入することで、安心感を提供でき、結果として本業自体が伸びていくプラスの効果をもたらすメリットも考えられます。オンライン上でのやり取りを通じて得られるデータがあるため、本業だけでは得られなかったデータを蓄積する機会になる点も見逃せません」(植田氏)

組込型保険の市場推移、組込型金融は「922%」超の爆増

 組込型保険の市場規模は、海外・国内ともに年々増加する傾向にある。米エクイティファームのLightyear Capitalによる2020年の調査では、2030年までに他業種からの参入含め、世界の組込型金融企業の時価総額の合計で7.2兆ドルに達する見込み。また、米国に限って言えば、2020年の年間収益は225億ドルだったものが、2025年には922%増の2,300億ドルに迫るという

 組込型金融の一領域である組込型保険も、その流れに準ずるのは間違いなさそうだ。組込型保険の市場規模予測について、植田氏はこう語っている。

「海外でも国内でも、組込型保険の市場規模が年々拡大していくことは間違いないでしょう。ただし、拡大の仕方には地域によってやや異なると言えます。具体的には、北米や中国での伸び率が高いと見込まれます。組込型保険の成長のドライバーとなっているのは、オンライン上での商取引の成長です。たとえば中国ではスーパーアプリや各種プラットフォームサービスが日常生活に浸透していため、急速に伸びると言われています」(植田氏)

 日本における組込型保険の市場規模もまた、着実に拡大し続けるとの予測が一般的だ。ただし、伸び率は中国や北米ほどには大きくないとのことだ。

「日本国内では、少額な保険商品やニッチな保険商品を中心として、消費者が加入しやすい領域から普及しているのが現状です。生損保の中では、生保よりも損保のほうがより組込型保険との親和性が高いと言われています。2030年ころにかけて、日本においても、損害保険の領域において組込型保険の存在感が高くなると予想されています」(植田氏) 【次ページ】組込型保険の先進事例、インシュアテックの存在際立つ

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