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  • 2023/08/09 掲載

「ビッグモーター不正」の衝撃、“損保そのもの”の信頼回復へ各社の対応と論点まとめ

FINOLABコラム

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ビッグモーターをめぐる報道は過熱しており、当初の保険金不正請求から、オーナー経営者による企業体質、ガバナンスの問題や除草剤散布による街路樹の損害にまで広がりを見せている。単独企業による不正行為ということであれば、その企業が必要な処罰を受け、信用を失うだけだ。一方本件は、同社と損害保険会社との関係の中で、「自動車保険そのもの」に対する信頼を失墜させる可能性もある。保険請求をめぐる不正の内容を整理するとともに、今後の展開を考えてみたい。

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

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ビッグモーターの浦和美園店の立ち入り検査に入る国交省の職員たち
(出典:毎日新聞社/アフロ)

ビッグモーターによる保険不正請求の概要

 ビッグモーターは大量のテレビCMで知られるようになった中古車の買取や販売とともに、自動車修理と保険の代理店業務も行っていた。今回注目されるようになった事案においては、修理サービスを担う部門で、損害保険会社に保険金を請求する際に不正が行われていた。具体的には、以下のような不正請求が行われていたことが判明している。

  • 実際には行われていない修理をあたかも行われたかのように請求
  • 修理が不要な部分についても修理を実施して請求
  • 車両に故意に傷をつけて修理が必要な箇所を増やして、修理を実施して請求

 同社が2023年7月18日に公表した外部弁護士による「調査報告書(作成日付は2023年6月26日)」においては、どの程度の規模で不正が行われたかをサンプルベースで調べている。

 同社が2021年に実施した鈑金・塗装案件は4万4788件のうち、特に不正が多かったとみられる「タワーけん引(車内部の骨格となるフレームのヘコみをチェーンでけん引して直す修理手法)」と呼ばれる作業が含まれる2万8706件から、約1割にあたる2717件を無作為抽出し、損害保険における被害額の客観的な査定を促進するための業界団体である「一般社団法人全国技術アジャスター協会」に検証を依頼した。

 その結果、サンプル全体の44%にものぼる1198件で、何らかの不適切な行為が行われた疑いがある(不正疑義)案件として検出された。

 さらに、北は札幌から南は鹿児島まですべての修理工場でこの「疑義案件」が発見されており、現場へのヒアリングを通じて、多くの従業員に不正行為という認識がありながら「不正な作業に関与したり、見聞きしたりした」という調査結果が出ている。

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「不正な作業への関与」について382人中、172人の従業員が「みずから不正な作業に関与したことがある」「自分以外の人が不正な作業を見聞きしたことがある」と回答
(出典:ビッグモーター 調査報告書

各当事者の関係

 実際の修理案件において、各当事者であるビッグモーター、損保各社、契約者との関係は下図のようになっている。

 このプロセスの中で「④修理実施」の際に、前述の不正行為が行われ、保険金の「⑤水増し請求」が行われることになるが、修理額が増えた結果として、契約者にとっては保険に適用される等級が下がってしまうことになり、翌年以降の保険料が増加するという損害を被ることになる。

 一方、ビッグモーターにとっては、修理費の不正な過大請求により、修理部門の売上が増大することになり、利益が増えることになる。

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車両修理をめぐる各当事者の関係
(出典:各社発表より筆者作成)

 損害保険会社にとっては、保険金の支払いが増加することにはなるものの、修理の必要な事故案件を紹介することによって、ビッグモーターから中古車販売にともなって割り当ててもらえる保険契約が増加するのであれば、結果的には利益は増える可能性は高い。

 このため、ビッグモーターとの関係の中から、損保会社が不正に目をつぶったのではないかという指摘はかなり以前から出てきており、損保各社の対応が注目を浴びることとなった。 【次ページ】「ビッグモーター不正」問題のポイントと論点、展望まとめ

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