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- 2023/10/12 掲載
スタバやマックが挑む「新・顧客体験(CX)」、注目すべき「スキャンレスペイ」とは
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
期待された「Amazon Go」と「Amazon One」の大失敗
米国では過去5年ほどの間に、ショッピング・商品受け取り・決済の煩雑さ(フリクション)をできる限り減らす仕組みの確立に向けて、研究、試行錯誤されてきた。その中でも特に期待されたのが、アマゾンによるレジレス店舗のAmazon Goと、同じくアマゾンが開発した手のひら決済のAmazon Oneだ。ところが、2018年の一般公開から5年を経ても主流になれていない。無数のカメラやセンサーによる買い物客の動きの追跡と、AIによる正確な決済を可能にしたジャスト・ウォークアウト技術は、許容できないほど精算ミスが多かった。また、2020年に実店舗での運用が始まったAmazon Oneも、2023年に傘下ホールフーズの全店舗(全米500店舗以上)で導入されるが、同社の発表では利用者数が300万人強にとどまり、米国の総人口3億3400万人の1%にも満たない。
ジャスト・ウォークアウトの精算ミスが多いのは論外であるが、それ以上の理由として「無数のカメラやセンサーで店舗内での一挙手一投足が監視される」「手のひらの形状と静脈パターンのデータをアマゾンに渡すのが怖い」といった、プライバシーの懸念が大きいことが挙げられる。
アマゾンは、「生体認証データは複数のセキュリティ制御によって保護されており、マーケティング目的で利用されることはない」と主張。だが、アマゾンのスマートホームセキュリティ子会社Ringの元従業員が、若い女性利用者宅の寝室や浴室に設置したカメラの動画を数カ月にわたって見ていたという失態を犯すなど、多くのプライバシー侵害の例が明るみに出ている。
潜在的な利便性が極めて高いにもかかわらず、プライバシー侵害の懸念が高く、消費者の信頼は薄い。これでは、フリクションレスどころか、心理的なフリクションが大きすぎる。こうした中、スターバックスはアプリでの事前注文により、「店舗のドライブスルーで名前を告げるだけ」「商品を受け取った時点で決済」との利便性を謳うスキャンレスペイシステムの実証実験を開始した。
スタバ:「成功の可能性大」と言える納得理由
しかし、バリスタを顧客役にして実証実験を始めたシステムでは、アプリで注文と仮払いの済んだ客が、店舗のドライブスルーレーンに到着した際に注文ゲートで名前を告げるだけ。実は、このときに顧客のスマホのGPS位置情報がアプリを介して店舗に送信されており、注文客のスマホの位置情報と「到着済み」の合図が一致すれば、高確率で注文客本人であることになる。
窓口の順番が来たときにバリスタから商品を受け取り、その時点で決済が完了する。スマホを取り出してバリスタにバーコードを提示する手順も不要だ。顧客側も店員側も手間が省け、生体データを取られることもない。
一方で、スマホの位置情報をアプリが開いている間に引き続き追跡されるリスクはあるものの、米ITニュースサイトのTechCrunchが指摘するように、生体データ提供よりは心理的な弊害が少ないだろう。
ジオフェンシング技術を活用したスタバのスキャンレスペイは、アマゾンの決済技術の普及が足踏みをする中で、成功の可能性がより大きい。2023年1~3月期のスタバの売上の74%はテイクアウトで占められており、テイクアウト決済の利便性が向上すれば、さばける業務量が増加して売上拡大が期待できる。それだけでなく、店舗の面積を狭めることで土地リース代や店舗建設費も大幅に圧縮できる可能性もある。 【次ページ】マクドナルド:日本のモバイルオーダーとどう違う?
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