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- 2023/12/21 掲載
ドコモのマネックス証券子会社化、金融業参入も「ドコモ経済圏は夢物語」なのはなぜか
連載:大関暁夫のビジネス甘辛時評
マネックス証券がドコモの子会社に
マネックスは51%の出資が残ることとなりますが、役員の過半をドコモが選任することから実質支配力基準に基づいて、マネックス証券はドコモの子会社になるとのことです。
この資本業務提携は一見すると、双方にメリットがある、いたって発展的な提携であるように映りますが、裏を返せば両社が立たされた苦しい事情を相互補完する手だてであるようにも捉えることができます。
まず、ドコモに子会社化されるマネックス証券ですが、1999年に現会長の松本大氏がソニーの支援を得て立ち上げた旧マネックスが、日興ビーンズ証券との経営統合を経て現在の会社が形作られたネット専業の証券会社です。
マネックス証券の取引口座数は約220万件。これは、ネット証券業界の取引口座数では第3位です。しかし、業界トップのSBI証券は1000万口座超、2位の楽天証券は900万口座超と、大きく水を空けられています。売り上げ規模でもSBI証券はマネックス証券の5倍以上、楽天証券は3倍弱であり、業界では“2強に離された3位”の状態にあるのです。
その実力差を痛いほど見せつけられたと言えるのが、日本株売買の手数料無料化の動きでした。この動きは、そもそも2022年にSBI証券が「2023年度上期中に手数料無料化を実現する」と宣言したことを受けて、楽天証券が追随を検討していたもので、今年8月に2社が相次いで手数料の無料化を表明したという出来事です。
これに対するマネックス証券の動向が注目されたものの、同社は即座に「追随しない」姿勢を表明。同社の収益状況に加え日本株売買への依存度が2社よりも高いこともあって、「追随できなかった」という報道もあります。
2024年の新少額投資非課税制度(NISA)の開始まで1カ月を切った現在、一般個人の資金運用への関心は高まっています。手数料の無料化はNISAスタートを機に証券運用を始める個人の、証券会社選びの決め手となる可能性が高いため、大手2社からさらに水を空けられかねない危機感がマネックス証券に募っていても不思議ではありません。そんな同社にとって、今回のドコモ傘下入りは、ドコモ契約者9600万人を新たな顧客ターゲットにできる格好の事案であったと言えるでしょう。
マネックスグループが得る株式の売却額は未来価値を見込んでの約460億円であり、これは2023年3月末時点でのマネックス証券の純資産額487億円にも相当する「高値売買」と表現できます。市場では今回の資本業務提携に関し、好意的な見方が大勢を占め、発表翌日にはストップ高となっています。
証券事業の売却でマネックスグループとしての事業規模は縮小するものの、今回得た資金を元に、資金運用を扱うアセットマネジメント業務の強化などを行う考えを示しており、セカンドステージへの移行を着実に進めたと言えそうです。
携帯キャリアが金融業に注力するワケ
一方のドコモも、マネックス証券には大いなる関心を持つ理由があります。携帯キャリアは菅政権下での携帯電話料金の官製値下げにより、本業の通信事業での利幅低下を余儀なくされるという環境の変化も手伝って、近年はカード取引から銀行、証券といった金融サービスの本丸と言える領域への連携を強めつつ、各キャリアはグループ全体で収益増強にしのぎを削っているのです。
特に後発の楽天は、祖業の物販とカード、銀行、証券、保険といった金融サービスを絡めた1億人超の顧客基盤を生かし、スマホ決済とポイント付与などのサービスを活用しつつ利用者を「楽天経済圏」内で回遊させることで携帯電話事業の早期黒字化をもくろんでいます。
ソフトバンクも、通信事業を核としてスマホ決済PayPayとPayPayカードを軸にPayPay銀行、PayPay証券を擁し、Yahooショッピングも絡めた独自経済圏をすでに作り上げています。
ドコモと同じく通信事業を祖業とするauも、auじぶん銀行、auカブコム証券、auペイ、auペイカードといったそれぞれが若干小粒ではありながらも金融事業のラインナップをすでに取りそろえ、経済圏確立に向け着々と足場固めは進めています。 【次ページ】ドコモが金融事業で「出遅れた」ある理由
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