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- 2025/05/28 掲載
日鉄のUSスチール買収、トランプ氏が「断固反対→承認」にコロッと考えを変えたワケ
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
トランプ氏の承認、地元や投資家は「前向き意見」
USスチールのお膝元である東部ペンシルベニア州の鉄鋼の街ピッツバーグや、周辺コミュニティでは、同社の労働組合員や民主党中道派・共和党の政治家などを中心に、「トランプ大統領の承認で日本製鉄が巨額の投資を行い、老朽化した施設を作り変えることで、USスチールの競争力が回復し、地元の雇用も維持される」との楽観的な見方が広がっている。ピッツバーグ郊外のUSスチールのアーバイン工場で全米鉄鋼労働者組合(USW)の副支部長を務めるジェイソン・ズガイ氏は米AP通信に対し5月24日に、「連邦政府が主要な役割を果たし、ディールが成立したように見える」との見方を示し、「ほっとした。ハッピーで、感謝している」述べた。
英コモディティ調査企業のCRUグループでプリンシパル鉄鋼アナリストを務めるジョシュ・スポアーズ氏も、「トランプ大統領の言うパートナーシップは、日本製鉄によるUSスチール買収への青信号に見える」との見解を示した。
投資家たちも、概ね楽観論を支持しているようだ。USスチール株は、トランプ氏が買収承認を示唆する旨をSNSに投稿した5月23日のニューヨーク株式市場で一時26%値上がりし、21%余りの上昇で取引を終えた。東京株式市場でも週明けの5月26日に、トランプ氏の曖昧な「承認」にもかかわらず日本製鉄株が買われ、一時前週末比7%高の3,081円をつけた。
一方で、米ブルームバーグが指摘するように、「投資家や経営陣、外交関係者らは、トランプ氏が何を承認したのか、はっきりと把握できていない」状態だ。経営権は誰が握るのか、また完全子会社化が承認されないのであれば、どのような投資形態になるのか、各方面が気を揉んでいる。
トランプ大統領本人は5月24日に記者団に対し、「これは投資であり、部分的な所有だが、米国によってコントロールされることになる」と話した。だが、完全な支配権を手に入れることができないのであれば、日本製鉄は株主に対して「パートナーシップ」を正当化できなくなる恐れがある。
翻って、大統領選の期間中は強硬に買収に反対していたトランプ大統領は、就任直後から立場を軟化させ続けている。それはなぜなのか。 【次ページ】「買収反対」から一転、「承認」に変わった舞台裏
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