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- 2024/07/08 掲載
今の日本経済に「円安」はメリットがあるのか?昭和とは違う…円安の影響やさしく解説
企業には仕入れがあるので、円安=業績拡大とは限らない
為替に関する一般原則として、当該国の通貨が切り下がった場合、輸出には有利になり、輸入には不利になる。海外に価格1ドルで製品を売っている企業は、1ドル=100円の時代には、日本円ベースで100円の売上高を得ていた。円が下落して1ドル=200円になれば、日本円ベースでの売上高は200円になるので、単純計算では業績が拡大する。一方、輸入している事業者の場合、為替変動の影響は正反対になる。同じ1ドルの製品を輸入するにあたって、1ドル=100円時代には100円で仕入れれば良かったものが、1ドル=200円になると倍の200円になってしまうので、当然のことながらコスト負担が大きくなる。
一般的に円安になると輸出産業は業績が拡大する一方、日常生活に必要な製品の多くが輸入なので、食品を中心に物価が上昇する。このため一般的な国民の生活は苦しくなってしまう。輸出企業の業績拡大効果と輸入による物価上昇がどうバランスするのかで国民生活への影響は変わってくる。
しかしながら問題はそう単純ではない。
先ほど製造業は輸出中心なので、円安になればメリットになると説明したが、現実はそうとは限らない。なぜなら、多くの製造業は原材料や部品などを一旦輸入し、日本国内で最終製品に組み立てた上で輸出しているので、円安になると仕入れコストが増大するという問題が発生するからである。
では円安になると製造業には具体的にどのような影響が及ぶのだろうか。
ある企業が1ドルで原材料を輸入し、それを2ドルで売ったと仮定する。当該企業の売上総利益(いわゆる粗利)は2ドルから1ドルを差し引いた1ドルということになる。この時、為替レートが1ドル=100円だった場合、当該企業は100円で原材料を仕入れ、200円で売ったことになるので、日本円ベースでは100円の粗利となる。
円安で業績を拡大しても、賃上げによって利益は減ってしまう
もしここで為替レートが1ドル=200円になり、売上高が2ドルのままで変わりなければ、日本円ベースでの売上高は400円になる。だが、同じタイミングで日本円ベースの仕入れ価格も上昇して200円になっているはずなので、粗利は400円から200円を引いた200円になる。日本円ベースでの利益は2倍になっているので、企業が得られる利益も増える計算だ。これは個別企業の会計というミクロな分析だが、これをマクロに拡大した場合でも、粗利益は付加価値に近い概念と捉えて良いので、円安は日本円ベースでの名目GDP(国内総生産)増加要因と考えて良い。
だが、これで国内経済が活性化するのかというと、話はそう単純ではない。企業は仕入れと売上高の差分で得た粗利の中から、人件費や広告宣伝費、オフィス代、減価償却費などを支払わなければならない。企業が得る最終利益は、これらのコストを差し引いた数字となるので、物価全体の動向がカギを握る。
1ドルが100円から200円になった場合、輸入品の価格は単純計算で2倍になるので、生活必需品の多くを輸入に頼る日本では、広範囲に物価が上昇する結果となるだろう。
従業員は消費者でもあるので、円安によって物価が上がった場合、生活が苦しくなり、賃上げを求めることになる。ここで企業が賃上げせず、従来と同じ人件費で経営を続けられれば、円安によって企業の最終利益は大幅に増える一方、従業員の生活は苦しくなるので消費は低迷する。逆に従業員の生活に配慮して賃金を上げた場合、増えた粗利の分は賃上げで相殺されるので、企業の最終利益は増えない。
ここで重要なのは、上記で取り上げたケースでは、販売数量が変わっておらず、あくまでも為替の変動によって円ベースでの金額が変わっているに過ぎないことである。つまり、円安によって日本全体が潤うためには、円安によって販売数量が増え、それによる増益効果が、賃上げによる減益効果を上回る必要がある。 【次ページ】昭和の時代、円安で経済が伸びたのは日本が途上国だったから
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