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  • 2023/12/07 掲載

物価上昇で「生活苦」でも…ストライキすら起こせない“日本人の未来”が超ヤバい理由

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日本でもインフレが顕著になってきたことから、国民の生活環境が大きく変化している。これまでの日本社会は我慢が美徳とされ、耐えることで何とかなった面も多かったが、インフレ時代にはその常識は通用しなくなる。新しい時代に向けた基本的な価値観の転換が必要である。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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これまでの日本社会では“我慢”が美徳とされ、耐えることで何とかなってきた面も多かったが……この厳しいインフレ時代にはその常識は通用しなくなる
(Photo/Getty Images)

デフレは不景気の結果として生じる

 日本では30年にわたってデフレ時代が続いたため、若い世代の中にはインフレというものを直感的に理解できていない人が多い。中高年も似たようなもので、昔の記憶はとっくに忘れ去り、日本は半永久的にデフレが続くと信じ込んでいる人が少なくなかった。メディアでも「日本はインフレにならない国」など、経済学の常識ではありえないような主張がまかり通っていたのが現実である。

 筆者は以前から経済の原理原則として、いつまでもデフレが続くことはありえず、日本の金融・財政状況などを考えると、いずれ円安に転じ物価上昇が始まると何度も指摘していた。だが筆者のような専門家は少数派であり、筆者らの指摘に対しては「分析能力がゼロ」「経済学を分かっていない」など罵詈雑言が浴びせられる始末であった。

生成AIで1分にまとめた動画
 しかしながら、日本が他国と比べてインフレになりにくい体質というのは、まったくの嘘でもない。

 なぜなら、上記のようなバッシングに代表されるように、日本社会は他人の行動を抑圧しようとする傾向が強く、これが国民生活を圧迫し、健全な経済活動を歪ませている現実について否定できないからである。

 デフレというのは、(金利をいきなり10%や20%に引き上げるといった)急激な金融引き締めなどを実施しない限り、不景気の結果として生じる。日本の長期デフレも同じであり、バブル崩壊以降、日本企業の競争力が著しく低下し、企業の業績や賃金が上がらなくなったことが最大の要因である。

 景気が上向かないので、物やサービスを販売する企業は値引きせざるを得ず、これが物価を押し下げ、さらに賃金の低下を招くという悪循環となっていた。「デフレマインド」など、得体の知れない「空気」によってデフレが引き起こされるのではなく、明確に不景気の結果としてデフレが生じていたというのが正しい分析と言えるだろう。

 その意味で日本も他国と何ら違ったところはないのだが、デフレが発生した後の動きは国によって大きく異なっている。大抵の国では、ある程度まで不景気やデフレが進むと、どこかのタイミングで経済は反転し、景気拡大に向かうことになるが、日本の場合、30年間、一向にそうした動きが見られなかった。

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大抵の国では、不景気やデフレが進むと、どこかのタイミングで経済は反転するが……なぜ日本経済は30年間も停滞し続けているのか?
(Photo:leungchopan/Shutterstock.com)

日本では「ストライキはわがまま」

 これにはさまざまな理由が考えられるのだが、日本社会特有の息苦しい雰囲気や日本人の行動様式がデフレ長期化と関係した可能性はそれなりに高い。

 一般論として、不景気で企業の業績が上がらず、賃金の引き下げが行われた場合、ある程度までなら労働者は受け入れる。だが一定の限度を超えると大抵の国の労働者は拒絶し、ストライキを起こしたり、より賃金の高い職場を求めて会社を辞めてしまう。

 企業は労働者がいなければ業務を遂行できないので、不景気で経営が苦しくても、相応の高い賃金を提示する必要に迫られ、賃金は自然に上昇に転じる。ところが日本の場合、賃金の据え置きや引き下げが30年間にわたって継続し、多くの労働者が我慢して受け入れるという、他国では見られない特異な状況が続いてきた。

 日本では賃上げ要求やストライキについて「わがままだ」と考える人が一定数存在しており、互いがこうした行動に出ないよう監視・抑圧している。企業にしてみれば、どれだけ賃金を下げても会社を辞めずに、文句一つ言わず仕事をしてくれるのだから、これほど都合の良い労働者はいない。こうした状況が30年にもわたるデフレの原因となった可能性はそれなりに高い。

 日本経済が完全に閉じた状況で、外国との貿易がなければ、我慢に我慢を重ねる生活様式というのも、かなりの期間にわたって継続できる(江戸時代はまさにそうした状況だったと言えるだろう)。だが近代化以降の日本は、典型的な加工貿易の国であり、輸出入を通じた海外とのやり取りが存在しており、海外の経済状況から大きな影響を受ける。 【次ページ】本来なら日本のインフレはもっと激しい

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