- 2026/08/12 06:30 掲載
アマゾン・アップル歴任のプロ経営者が語る、国際送金に勝つ“4条件”と“4トレンド”(2/4)
「1ドルを1秒で届ける」なぜ5000ルートも築けたのか
ガニンガム氏はCEO就任後の6カ月間で、レミットリーという企業の「玉ねぎの皮」を一枚ずつ剥ぐように理解を深めていったという。新しい会社に入ったとき、調べれば調べるほど悪い面が見えてくるケースと、逆に良い面が見えてくるケースがあるが、レミットリーは後者だった。「南米のどんな小さな町にでも1ドルを送れます。しかも1秒で届き、コストは非常に低いです。驚くかもしれませんが、世界では信じられないほど多くの人が国境を越えて送金しています」(ガニンガム氏)
レミットリーの最初の送金ルートは、米国からフィリピンへの送金だった。そこから米国─メキシコ、米国からインド、欧州からインド、UAEからパキスタンと、大きなルートを1つずつ開拓してきた。現在は約170カ国、5000以上の送金ルートを実現し、2026年中にさらに1000ルートを追加する計画だ。それでも、すべての国の組み合わせを考えると「まだ半分程度」にすぎないという。
なぜこれほどの広がりを持つネットワークを構築できたのか。その背景にあるのは、「最も価値のあるサービスは、世界中どこにでも送金できること」という信念だ。アフリカ全土、南米全土と人々は実に多様な場所に送金している。数種類のルートに特化する送金企業も多いが、5000以上のルートを持つプレーヤーは限られている。ネットワークの広さと深さこそが、レミットリーの競争優位を生んでいる。
現在、レミットリーの顧客数は世界1000万人に達している。そして、毎日何度もアプリにログインしていることから、この顧客基盤に対して、送金以外の金融サービスも拡充し始めている。口座機能の提供やカードの発行、そして小口融資など移住先で多くの移民がアクセスできない金融サービスを提供することで、生活を軌道に乗せる手助けをしようとしている。
「米国では30日間の少額融資を始めました。月末に資金が足りなくなる人がいるためです。ただし、借りたお金でできることは送金だけにしています。郷里への仕送りはできるが、何かを買うことはできないというわけです」(ガニンガム氏)
徹底して顧客の生活に対応したサービスの設計思想が、レミットリーのミッション志向を象徴している。
法人シェア“ほぼゼロ”が武器に?「3つの成長エンジン」
レミットリーの成長戦略は、3つの方向に広がっている。
「フリーランサーや、海外のエンジニアに支払いをするレストラン経営者のような、本当に規模の小さい事業者でした。日本でもビジネスオーナーが海外の誰かに支払おうとすると大変でしょう。銀行に行き、法人登記を見せ、送金先の情報を説明し……とにかく複雑で手間がかかります。私たちはそれを簡単にする仕組みを構築しました」(ガニンガム氏)
現在、レミットリーは個人向け送金市場で約3~4%のシェアを持つが、法人向け市場のシェアはほとんどない。ここに巨大な成長余地がある。デジタルコンテンツの制作者が海外から収入を得たり、インフルエンサーが国境を越えて報酬を受け取ったりするケースも増えている。
たとえば南米を旅行した後、現地のツアーガイドにチップを送りたいと思っても、銀行を通せばチップの額をはるかに超える手数料がかかる上に、いつ着くかわからない。レミットリーなら数回のタップ、わずかな手数料ですぐにお金が届く。
2つ目の成長エンジンは、高額送金の市場だ。1万ドルや1万5000ドルを超える送金を行う層で、母国に投資する人、自分自身に送金する人、海外で不動産を購入する人などが含まれる。
「米国にはインド出身のエンジニアやホワイトカラーの移民が数多くいます。インドへの送金は非常に大きな流れで、自分への送金、家族への仕送り、不動産購入、投資、慈善活動の支援など、用途は多岐にわたっています」(ガニンガム氏)
そして3つ目が、銀行との連携による「ネットワーク・アズ・ア・サービス」の可能性だ。ガニンガム氏は「まだ非常に初期段階」と前置きしつつも、銀行がレミットリーのネットワークを自行の顧客に提供するモデルに手応えを感じている。
ある銀行が既存のインフラで10カ国への送金をカバーしているとして、それ以外の国への送金にレミットリーのネットワークを組み込めば、銀行も顧客も、そしてレミットリーも恩恵を受ける。すでに複数の銀行と対話が始まっているという。
最大のライバルは意外にも…中国が示す「決済の未来」
国際送金の世界で、最大のプレーヤーは誰か。意外に思われるかもしれないが、答えはいまだに「銀行」だ。テクノロジー企業の台頭が注目を集めるが、世界の送金の大部分は依然として銀行を通じて行われている。「銀行はまだ高くて遅いかもしれません。しかし銀行には“信頼”があります。長年にわたって安定した成功を勝ち得てきた存在です。ただし、市場は非常に大きいので、特定のセグメントに集中してサービスを磨けば、全員にとって十分な成長の余地があります」(ガニンガム氏)
さらに同氏が指摘する重要な視点は、レミットリーのようなデジタル送金会社の成長は、主に競合他社からの顧客奪取ではなく、従来は銀行システムの中で別の手段を使って送金していた層の取り込みから生まれるということだ。つまりパイの奪い合いではなく、パイ自体が広がっている。
では、銀行の送金ビジネスの未来はどうなるのか。ガニンガム氏が興味深い事例として挙げたのが中国だ。最近、同氏が中国の決済領域の関係者と面会した際に、思い切って「AlipayとWeChatを通じて決済の大部分が行われている中国で、50年先、銀行のビジネスはどうなるのか」という問いを投げかけたという。
中国では、リテール決済がほぼ完全に銀行システムの外に移行した。残ったのは融資(レンディング)のビジネスだ。もともと決済はリテール銀行の中核事業であり、それが丸ごとウォレットや決済アプリに流れたことの意味は大きい。日本を含む他の国々でも、同じ力学が徐々に働き始めている。
一方で、JPモルガンは1日に20兆ドルもの企業間送金を処理している。レミットリーはこうした大企業向けの市場に参入するつもりはない。セグメントの棲み分けが、巨大市場における共存を可能にする。 【次ページ】ガニンガム氏が注目「金融業界のメガトレンド4選」
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