- 2026/08/12 06:30 掲載
アマゾン・アップル歴任のプロ経営者が語る、国際送金に勝つ“4条件”と“4トレンド”(3/4)
週末に銀行が作れる?CEOが挙げる「メガトレンド4選」
ガニンガム氏が見ている金融業界のメガトレンドとして4つが挙げられた。第1のトレンドは、世界各地で台頭するデジタルバンク(ネット専業銀行)だ。従来の大手銀行と同等以上のサービスを、10分の1のコストで提供する。ゼロからテクノロジー基盤を構築し、効率性を極限まで高めた設計が、この圧倒的なコスト優位を生んでいる。「10分の1のコストで同じことができれば、新しい顧客を獲得する機会が生まれることは間違いありません」とガニンガム氏は指摘する。
第2のトレンドは、AIによる製品開発の劇的な加速だ。ここにガニンガム氏の最も鮮烈な見立てがある。
「あと2年もすれば、小人数の開発者が週末だけで銀行を立ち上げられるようになるかもしれません。土曜はあなた、日曜には私が作業して、月曜に新しい銀行を開業する。誇張ではありますが、フィンテックにおけるプロダクト構築の壁はくずれつつあると思います」(ガニンガム氏)
レミットリー自身も、この変化の恩恵を受けている。以前は新製品の投入に相当な時間を要していたが、現在はほぼ2週間ごとに新しい商品やサービスをリリースしている。カード発行、資産管理、新たな決済機能、不正対策 ― かつては大がかりな議論と投資が必要だったものが、仕様の設計から開発まで1日で構築できる時代が近づいている。
ただし、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング対策)、ライセンス取得といった規制対応は依然として残る。テクノロジーの壁は消えても、規制の壁は消えない。この非対称性が、既存プレーヤーの「既得権」を維持する要因になっている。
第3のトレンドは、規制環境の「ねじれ」だ。米国は規制緩和の方向に進み、銀行免許の承認も積極的に行っている。しかし世界の大部分は逆方向、つまり規制強化に向かっている。日本もその傾向があり、規制が厳しくなっている印象がある。フィンテック企業は、緩和と強化が同時に進行するこの「テンション」(緊張関係)に対処しなければならない。
そして第4のトレンドは、暗号資産による新しい送金ルートと、ステーブルコインの台頭だ。この領域には、多額の投資と優秀な人材が集まってきている。
ステーブルコイン“安い”は幻想?普及を阻む「3つの壁」
ステーブルコインは国際送金を根本から変えるのか。ガニンガム氏の答えは、期待と現実の両方を映し出している。「私たちは5000の送金ルートすべてのコストを把握しています。ブロックチェーンのコストと比較すると、90%のルートで私たちの既存インフラの方が低コストです」(ガニンガム氏)
この数字は意外に思えるかもしれない。ブロックチェーン送金は「安い」というイメージが先行しがちだが、レミットリーが10年以上かけて最適化してきた既存の送金ネットワークは、多くのルートでブロックチェーンより効率的だというのだ。
もちろん、ステーブルコインが低コストとなるルートでは積極的に活用していく。しかし、コストだけが論点ではない。ガニンガム氏は3つの構造的な課題を指摘する。
第1に、「入口と出口」の問題だ。たとえステーブルコインで送金しても、受取人は最終的にそれを現地通貨に換える必要がある。ステーブルコインで経済が運営できる国は存在しない。日本円に、フィリピンペソに、メキシコペソ、最後は法定通貨への変換が不可避だ。
第2に、コンプライアンスの壁は変わらない。
「すべての送金事業者は、たった1件の取引で問題を起こすリスクに日々直面しています。送金側であれ、規制当局であれ、受取側であれ、ステーブルコインで送ろうと、法定通貨で送ろうと、どんなルートを使おうと、この基盤は堅牢でなければいけません」(ガニンガム氏)
第3に、各国政府のスタンスが分かれている。多くの国は自国通貨のドル化を望まない。自国民がドル建てのステーブルコインを大量に保有する事態を、すべての国が許容するわけではない。「反対派は『国民が外貨建てのステーブルコインを保有することに納得できない』と言い、賛成派は『素晴らしいことだ、自由にすべきだ』と言っている。この決着はまだついていない」と同氏は対立を指摘する。
さらにガニンガム氏が注目するのは、現在のステーブルコイン市場を支配しているのが米国の民間企業であるという事実だ。
「現在高いシェアを誇るステーブルコインは、米国の民間企業が発行しています。過去に民間企業が発行した通貨を保有した経験のない人が大部分で、これは比較的新しい現象です」(ガニンガム氏)
最後にデジタル通貨で喧伝される「プログラマブル(プログラム可能)」という特性についても、ガニンガム氏は疑問を呈した。送金のスピードや24時間365日の稼働といったメリットは理解できる。しかし「プログラマブルマネー」の説得力ある実用例は、まだ目にしていないという。
さまざまなアイデアは提示されているが、「本当に今そこにある問題を解決している」と実感できる段階には至っていないというのが、現場で巨額の資金を動かす経営者の偽らざる感触だ。 【次ページ】在留外国人400万人に照準、なぜ「2~3年前に来るべき」?
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