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  • 2024/02/09 掲載

世界で最も成功したフィンテック企業、Wise CEOに聞く「送金10兆円」への秘訣と軌跡

FINOLABコラム

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世界中のフィンテック企業の中でも「代表的な成功例」として取り上げられる企業がP2P送金サービスを手がけるWise(旧TransferWise)だ。2021年にロンドン証券取引所への上場した同社が成功を収めた理由とは何か。多くのスタートアップが参入した国際送金市場で他社を圧倒した「秘訣と軌跡」を同社CEOのクリスト・カーマン氏に聞いた。

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

photo
Wise
CEO
クリスト・カーマン氏
(撮影:FINOLAB)
※本稿は、2023年12月12日にFINOLAB(東京 大手町)で開催されたトークセッション「In Conversation with Wise」において、WiseのCEOであるクリスト・カーマン氏が、同社に投資しているWiLのパートナー 代田 常浩氏のモデレートで語った内容、および参加者との質疑を再構成したものである(代田氏がモデレートしたパートはFINOLAB CHANNELで公開中)。

Wiseのビジネスはどのように始まったのか?

 まず、Wiseのビジネスについて振り返っておこう。以下の数字からその規模の大きさが分かる。

送金取扱量:570億ポンド(2023年前半6カ月 約10兆円)
収益:6億5,600万ポンド(2023年前半6カ月 約1,200億円)
顧客数(全世界):1000万人(1年以内に送金を行った顧客の実数)
従業員(全世界):5000人
株式上場先:ロンドン証券取引所
時価総額:90億ポンド(2023年12月末時点 約1兆6,000億円 ロンドン証取52位)

 ではそのWiseはどのように始まったのか。エストニア出身のカーマン氏は2000年代後半に、コンサルタントとしてロンドンで働いていた。定期的にポンドを英国からエストニアに銀行経由で送金していたが、エストニアの口座に入金されるユーロ金額が自分で計算した額よりも随分少なくなることに気づいた。銀行に問い合わせるなど調査の結果、通貨交換する際の適用レートを銀行側で5%も上乗せしていることが分かった。

 同じくエストニア出身でWiseの共同経営者となるターヴェット・ヒンリクス氏は、逆にエストニアの銀行から英国にユーロを定期的に送金する必要があった。2人は英国にあるカーマン氏のポンドとエストニアにあるヒンリクス氏のユーロをお互いに市場レート(ミッドマーケットレート)で交換することにより、資金移動のコストを下げられることを発見し、この体験がビジネス立ち上げのヒントになった。

 とはいえ、この仕組みをすぐにビジネスに展開することになったわけではない。3年程度を経てから、こうした問題はロンドンにいるエストニアの人に限らず、さまざまな国の人にも起こっているのではないかと考えるに至り、そうしたニーズに応える簡単なプログラムを作ることになった。

 そして2人は「資金移動をビジネスとする場合には規制の対象となるだろう」と予測して、分厚い資金移動に関する英国のガイドラインを入手してじっくり読みこんだ上で、資金移動業のライセンスを申請した。

 3カ月ほど経ったところで規制当局に問い合わせ、「待ってください」という連絡から1年後にライセンスが発行された。まずはIT関連の人のアクセスが多かったTechCrunchに作ったプログラムを掲載して反応をみたところ、早速フランスに2000ポンドを送りたいという入力があり、1日経過する頃には20~30件の送金依頼が登録されるようになった──。それがTransferWiseとしてビジネスを開始した2011年のことだという(2021年に社名を現在のWiseに変更)。

 そこから拡大したビジネスが最近では「6カ月で570億ドル」という送金規模になったことを考えると、「コストを抑えて早くお金を送りたい」というニーズは確かに存在していたことになる。

サービスはどのように発展してきたのか?

 Wiseでは、サービス展開にあたっては顧客の声を聞くことが重要であると考えている。これまでの提供サービス拡張は常に顧客の要望を基に優先順位を決めながら、実現する形で進めてきている。

 当初英国と欧州で展開していた送金サービスの範囲を拡大するにあたり、顧客の希望する通貨を集計して優先順位を設定しながら、「規制内容を確認した上でライセンスを取得する」というプロセスをくり返した。その結果、現在では中国を除いてほとんどの主要国で送金サービスを提供できるようになっている。当初対応としていた個人顧客だけではなく法人へとサービス対象も広がった。

 資金移動に加えて、顧客の国際的な活動をサポートするために「マルチカレンシー口座」も提供するようになった。このサービスで扱うのは、必要に応じて複数通貨で資金を保有できる口座で、多くの通貨が各国の決済システムと連動している。

 マルチカレンシー口座は法人顧客にとっても便利なサービスである。たとえば、日本の事業者が米国の顧客からの代金受取を行う際に、通貨交換を伴わずに米ドルのまま受領できる。必要に応じて、マルチカレンシー口座内で他通貨に移せるため、Wise内で一般の銀行と比較するとはるかに少ないコストで通貨を交換できる。

 さらに、Wiseでは「マルチカレンシー口座にひもづいたデビットカード」にも5年前から取り組んでいる。このデビットカードは滞在先の国で支払いを行う際に、その国の通貨の残高が充当されため、国際的な活動を行う人には非常に便利である。あらかじめ当該通貨の残高を入金しておけば、いちいち両替する必要はなく、滞在中の外為レートの変動を気にする必要もない。

 このように、Wiseは顧客の国際的な経済活動に役立つようにサービスを着実に展開してきたが、あらゆる金融機能の搭載を目指す「スーパーアプリ」の実現を目論むものではないという。

画像
あらゆる質問に真摯に回答するカーマン氏
(撮影:FINOLAB)
【次ページ】成長を持続できた秘訣は?

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